海外音楽評論・論文紹介

音楽に関するレビューや学術論文の和訳、紹介をするブログです。

Pitchforkが選ぶテン年代ベスト・ソング200 Part 16: 125位〜121位

Part 15: 130位〜126位

125. Lykke Li: “I Follow Rivers” (2011)

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Lykke Liはかつて、“I Follow Rivers”を書き上げたきっかけとなった圧倒的な欲望を「自然の力」になぞらえた。相手の思惑のなすがままになった末に「声を失ったみたいに」感じること。彼女はそのカタルシス的メタファーを、ガール・グループ風のストンプ・ドラム、不協和音を鳴らすオルガン、そして口ごもりがちなヴォーカルによって表現した。それは当初彼女が成功を収めた物静かでより繊細な曲とは正反対の方向性であった。それは彼女が当時まだ掘り起こしていなかった、より深いところにある新たな悩みのレイヤーを彼女に与えた。“I Follow Rivers”で、彼女はただ単により深刻な渇望を満たそうとしていただけかも知れないが、彼女の欲望を剥き出しにした傷だらけの歌声が、彼女に宇宙的な引力への思慕をもたらしたのだ。–Eric Torres

124. Nicki Minaj: “Super Bass” (2010)

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 “Super Bass”がバンガーである理由の一つに、この曲が持つ感情的な深さがある:この曲で歌われている熱烈な欲望とのコントラストを形成し、パーティーを知らせるサイレンでもある、ヴァースのすぐ下に流れている悲しいコードをじっくり聞いてみれば良い。「男性の視点(male gaze)」を転覆させるような、彼女が魅力的に感じる男性のポイントのリストをシェアし、Nick Minajのラップの連射がビートと競争する。その後に続く「boom badoom boom」というコーラスは土砂降りの雨の後の虹のように輝く。ブリッジのトランス風のストリングスが、このコンテンポラリー・ポップの傑作の決め手である。–Ruth Saxelby

123. Clairo: “Bags” (2019)

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ClairoことClaire Cottrillはこの“Bags”以前にも共感しやすくてキャッチーなベッドルーム・ポップを多くアップロードしていた。その中には恋愛関係のなかで女性が強いられる不公平な犠牲を嘆いたヴァイラル・ヒット“Pretty Girl”も含まれている。しかしそれらの曲は、まるで彼女がまだとっておきを残しているかのように、控えめに感じられた。デビューアルバム『Immunity』のリード・シングルは、新たな活力と否定しがたい輝きを持って彼女に改めて脚光を浴びせた。Rostamとの共同プロデュース作である“Bags”は、彼女のロー・ファイ的な出自を完全に過去のものとした。ドラムの振動や昆虫の羽のように唸るシンセ、酔っぱらいの喧騒のようなキーボートによってアクションがふんだんに聞こるこの曲だが、それでも一人で歩くのが好きだと回想するCottrillの声には抑制と落ち着きがある。この曲は、ドアが閉められたあともクールな装いを保とうとする途方も無い努力を鮮やかに切り取っている。–Vrinda Jagota

122. Playboi Carti: “Magnolia” (2017)

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世の中にはアルバム・アーティストとシングル・アーティストがいて、それともう一つ、Instagram上の死ぬほど圧縮された動画の断片というかたちで猛烈に消費される、Playboi Cartiのようなラッパーがいる。インターネット上の最も無秩序な街角(アトランタにおいてもだが)から出現したCartiは、公式なアウトプットの量より約束のほうが上回る人であるが、それもまた一つの戦略である。“Magnolia”は彼の重要なスキルが全て同じ方向に向けられた、珍しい瞬間である:アドリブの延長線上とも言える、一瞬で覚えられるフックを持つ不吉な曲だ。このヒットはプロデューサーのPi'erre Bourneを無名の地位からラップ・プロダクションのAリストにまで押し上げ、世界的に知名度を獲得するきっかけにもなった。“Magnolia”はCartiとPi'erreの化学反応を蒸留した最良の結果であり、ラップ界の目まぐるしい世代交代の中で、すでに有象無象の模倣を生み出してもいる。–Paul A. Thompson

121. DJ Rashad: “Feelin” [ft. Spinn and Taso] (2013)

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フットワークにおける時間との関係性は、音楽的な手品と大きく関わっている。このジャンルの音的要素は、他の者がダラダラと歩いているところを3倍の速度で走り抜けながら、その切迫感は他と矛盾していない。そして、そのエネルギーを流動的に扱うことに関して、DJ Rashadの右に出る者はいない。彼が生前唯一リリースした2013年のアルバム『Double Cup』に収録されている“Feelin”はRoy Ayerの“Brand New Feeling”の物憂げなサックス・リフを中心に、ソウル・シンガーMerry Claytonの恐るべきヴォーカルを蒸留し有機的な曲線にしてRashadの熱を帯びたビートに乗せていく(RashadのTeklife Crewのメンバー、SpinnとTasoが2012年に発表された“Feelin”の初期ヴァージョンからのブラッシュアップに貢献していることは記しておくべきだろう)。Ayerの原曲は、愛の初期衝動が持つ、どんどん変化していく力について歌った曲である。Rashadの場合、猛烈なペースで過ぎていく人生の中で何かを感じられるものを探し求めるという営みについての反芻である。–Ruth Saxelby

Part 17: 120位〜116位