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<Pitchfork Review和訳>Chai: PUNK

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pitchfork.com

点数:8.3(BNM)
評者:Sophie Kemp

日本の4人組の2枚目のアルバムは、大胆不敵なフェミニストのメッセージが乗った、熱狂的で何もかもが過剰なポップに捧げられている

下の歌詞について考えてみてほしい:「ピンクのおしりは my charm/トゥインクル ジュエル パール プリンセス トワイライト!」そして次にミックスに少しきらめきをふりかけてみよう:ほんの少しだけボーカルにディストーションをかけて、複数のシンセのラインをねじ込んで、最後には面白半分で4つ打ちのドラムなんかも足してみよう。これで「I'm Me」、Chaiの甘〜いバブルガム・ポップのできあがりである。Chai。4人組のディスコ・パンク・バンドであり、様式化された共同生活を送り、おそろいの衣装を着ながら、日本という国における美しさや可愛らしさの機能の仕方を動揺させようと熱望するバンドである。

 名古屋を拠点とするこのバンドの2枚目となるアルバム、『PUNK』はとんでもないくらい思い切った作品である。現在のインディー・ロックのトレンドはヘヴィな音で、喪失や切望を歌うことである。しかしChaiは楽しみのためにイエスと叫ぶバンドであり、『PUNK』は自分でいること、友達を愛すること、そして自分の生き方にたいして周りがどう考えようと気にしないということについて真剣に書かれた作品である。「I don’t know about the world but I know me/I don’t hide my weight(世の中については知らないけど、私は自分のことはわかってる/体重は隠さない)」とボーカリストのManaは「I'm Me」の中で繰り返す。『PUNK』にはこのような大胆不敵なフェミニスト的ソングライティングが満載である。エンパワーメントがダサいのだとしたら、Chaiの女性たちはダサくあることを選んでいるのだ。

 ブログ・ハウス平穏な時代と、Lizzy Mercier DesclouxTom Tom Clubのようなダウンタウン・ニュー・ウェイヴ勢の恍惚とした楽しみ。Chaiはこの二つから等しく影響を受けている。楽しい物事がぎゅうぎゅうに詰まったこの30分のアルバムの中では、息継ぎをするのも難しい。例えば「GREAT JOB」を例に取ってみよう。この曲は田舎のアーケードで一段と光り輝く「ダンス・ダンス・レボリューション」から流れてくるような音楽に聴こえる。スロット・マシンの勝ちの演出が光り、シンセはまるで車のクラクション、ボーカルはトラックの内部で、まるで音質の中で受粉するためにうじゃうじゃと群れているミツバチのようにガヤガヤと叫びまわる。「ファッショニスタ」はネオンで光り輝くギターのオーバーダブでガンガンと突き進んでいくが、その一方で産業的な「かわいさ」の資本主義的衝動について大真面目に語っている。「Too much メイク/リップとアイブローだけで all set/ツヤのある yellow skin/これ以上はない」が象徴的なラインである。マーチングバンドのような15秒間のループによって構成されるポスト・パンク・トラック「THIS IS CHAI」では、彼女たちは人間の声の歪みや崩壊のエフェクトを探求している。これらの曲のノイジーなレイヤーを聴くと、ホイップクリームの缶が圧力で膨張して爆発する光景を思い浮かべてしまう。

 Chaiがやっとその勢いを緩めかかるのが、愛する人たちと新年を迎えることを歌う星のようなポップ曲「ウィンタイム」である。ベットリとしたようなシンセの音が印象的だ。バンドがアルバムの中で最も控えめな雰囲気にシフトチェンジすると、その歌詞世界は深い宇宙へと旅立つ。「冷たい空には/欠けてる月が笑うよ/まぶしいくらいに」と4人は歌う。単なる友情の歌であるにとどまらず、「ウィンタイム」は幸福が夜空に浮かぶ惑星を退行から抜け出させる力を持っている、そんな未来を描くのだ。