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<Bandcamp Album of the Day>Raúl Monsalve y los Forajidos, “Bichos”

ベース・プレイヤーのRaúl Monsalveは長年に渡ってアフロ‐ベネズエラ・コミュニティの音楽を研究しており、伝統楽器の奏法や、彼らの音楽の他の音楽形態とのつながりについて深く理解してきた。ベネズエラサウンドは彼のバンド=Raúl Monsalve y los Forajidosのこれまでの作品でもかなりガッツリ取り上げられていたが、この『Bichos』ではそのリズムたちがついにセンターを張り、ラテン・ジャズ、エレクトロニカ、ファンク、そしてアフロビートと融合しながら、伝統的かつ未来志向の音楽の豊かなタペストリーを織りなしている。ベネズエラ、ロンドン、パリから音楽家たちが参加している本作『Bichos』は地域という次元を超えた遺産を、そしてそれと同時に世界中の音楽的伝統の相関性を称える一枚である。

アルバムの始まりを告げつのはベネズエラのVasallos del Solによるフォークであり、やがてディープなシンセ・ベースが方向転換を告げにやってくる。“Bocón” ではFamily AtlanticaのLuzmira Zerpaが嘘つきとビッグ・マウスを攻撃するためにコール・アンド・レスポンスのボーカルを用い、そこで鳴らされているのは伝統的な沿岸部のメロディとquitiplásのポリリズミックなパーカッションである。“Mosquito” はアフロ・ファンク。ベネズエラのバルロベント地方の打楽器=minaの音色が、パンチの聞いたホーンと「ベネズエラの歌声」=Betsayda Machadoのパワフルなボーカルと共に耳に流れ込んでくる。一方で “La Mariposa” は軽やかな一曲。伝統的なsangueoのリズムをベースにしたシネマティックなトラックに、Lya Bonillaのコール・アンド・レスポンスのボーカルが乗る。

『Bichos』は音のタペストリーである――MonsalveのリズミックなベースはDave De Roseのドラミング、アフロ‐ベネズエラの打楽器、アフロビートのグルーヴ、そしてシンセのメロディなど数多くの要素と噛み合っている。しかしプロデューサーのMalcom Cattoはそれらを織り合わせ、ベネズエラの音楽風景と、それを生かし続けている人々やコミュニティを生き生きと描写している。

By Megan Iacobini de Fazio · October 22, 2020

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