海外音楽評論・論文紹介

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<Bandcamp Album of the Day>Ulthar, “Providence”

ベイ・エリアの漆黒のデス・メタル・トリオ=Ultharはこの2作目『Providence』において、変わらずにその奇妙な道を勝手気ままに突き進み続けている。ベーシスト/ヴォーカリストのSteve Peacock――これまでもMasteryApprentice DestroyerPandiscordian Necrogenesisといったバンドでブラック・メタルの境界線を拡張してきた人物――の発明で、彼らは(少なくともPeacockの基準によれば)ポップにも近い自制心に裏打ちされた、キャッチーでありながらカオティックなデス・メタルを標榜してきた。2018年の素晴らしいデビュー作『Cosmovore』のように、『Providence』も爆発的なエクストリームさとプログレっぽい奇妙さを競わせながら、ギタリストのShelby Lermo(Vastumにも所属)とドラマーのJustin EnnisがPeacockの巻き起こすカオスを増幅させている。しかしこれは単なる焼き直しではない:より規律正しく、端正なデス・メタルのハートの中に少しだけ拡張の感覚を持っている『Providence』は前作からの着実な進歩を示しており、今のところ今年で最も強力なメタルのアルバムである。

彼らがたった2年でどれほど変化したのかを適切に表している“Churn”で『Providence』は幕を開ける。Lermoが分厚いリフと催眠にかけるようなトレロモをシームレスに行き来するサウンドを聞かせるUltharは、その狂気的とも言える流動性がなければその辺のOSDMバンドと大差ない。ストレートに演奏しているときでさえ、Peacockのオッド・アイが大きく迫ってくる。“Undying Spear”はPeacockのディープなホラー・シンセとLermoのアコースティック・ギターで始まり、『Sabbath Bloody Sabbath』の邪悪な不吉さをかすめて通っていく。その結果聞こえてくるこの小旅行は、ともすると平凡なデス・メタルに聞こえてしまいそうなところに技術的な装飾がキラリと光り、Ved Buens Endeのようなひょろながいブラック・メタルを思い起こさせる。“Cudgel”もまた伝統と混乱をうまく利用している楽曲だ:Lermoの屈強なダウンストロークが戦いに向けた血液を送り出しているが、戦う相手はUltharが作り出した多数の目や足をもつ、成長を止めない獣であり、勝機はほぼないといっていい。それはUltharが引き続きインスピレーションを受けている、『スターシップ・トゥルーパーズ』で人間の肉が引き裂かれてばらばらになるシーンと同じように、ラヴクラフト的な悪夢にピッタリの音楽である。Lermoの低音グロウルとPeacockの甲高い叫び声は、それら自体は耳に馴染みのあるものだ:しかし組み合わさることによって、まるで二人の頭は二つともゾッとするような巨人の体から生えているのではないかという幻想を浮かび上がらせる。タイトル曲の冒頭や最後の曲“Humanoid Knot”の瀕死の息遣いなど、彼らの声が苦しみの中で調和し、『Providence』の本質を思い起こさせる場面がある。その本質とは、いま眼前に存在しているのは不価値で不吉なものであり、その形すら認識することができない。が、そういう理由によって魅力的でもあるということである。

By Andy O’Connor · June 16, 2020

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