<Bandcamp Album of the Day>Pan Amsterdam, “HA Chu”
2000年にニューヨークのジャズ・シーンにおける「期待の新人」と言われながらも、トランペッターのLeron Thomasはそれに反して悪評を刻み続けた。彼自身の考案である “other music” というスタイルーージャンルやコラボレーションの自由な衝突ーーはシーンに反抗するものとして生み出され、彼がそのシーンの政治を嫌っていることを体現していた。その反抗的な性分はやがてPan Amsterdamという新たな生命を生み出した。多くのヒップホップにおけるオルター・エゴーーMF DoomやDr. Octagonーーのように、この変名は業界の束縛からの逃避としても機能している。
この改名後程なく、Iggy Popがアルバム『Free』のための作曲、プロデュースに彼を起用した。Popは彼をツアー・バンドのリーダーとしてツアーに参加させ、Pan Amsterdamにとっては次なる大きなブレイクのきっかけとなった。彼の最新作『HA Chu』は、Iggyとのツアーの間に友人と一緒に録音した素材で構成されている。
手触りの麺でも音楽的な麺でも、『HA Chu』は前作よりも暗い。“Dried Saliva” は逆回転されたブリップとピアノの音色が取り憑かれたような雰囲気を醸し出し、“Script” は軽やかな鍵盤とフィンガースナップのみの状態に削ぎ落とされている。Pan Amsterdam自身もまた陰鬱になっている。“Carrot Cake” の70年代のアフリカン・プロト・ディスコのサンプルの上で、彼は敵意を剥き出しにしている。“Trying to control my fate?/ Have a talk with your mom after I’m done with carrot cake(俺の運命を支配したい?/俺がキャロット・ケーキを食べ終わった後、自分のママと話でもしてな)”。アウトロである “New York Hustle” で、ジャズ・ミュージシャンがどの音色を演奏するかまでを決めつけるような、ニューヨークのジャズシーンにおける人種的・社会経済的な抑圧を忌み嫌っている。これによって『HA Chu』からは “other music” 的転覆を感じることができる:彼はラップを通じて、ゲートキーパーたちのご機嫌を伺うのではなく自分の基準で音楽をやるための脱出を図っている。『HA Chu』はPan Amsterdamによる、敵意むき出しの業界ディスの作品である。
By Blake Gillespie · October 06, 2020