海外音楽評論・論文紹介

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<Bandcamp Album of the Day>Rituals of Mine, “Hype Nostalgia”

2015年以来、Terra Lopezは感情的に上下の激しい時期を過ごしている。サンディエゴ出身のこのミュージシャンは父親と親友を6ヶ月の間に亡くし、その後に声をなくし、彼女のバンド=Sister Crayonの解散を乗り越えた。そうして今はRituals of Mineという名義のソロ・アーティストとなったLopezは未来的なR&Bとベース重視のエレクトrニック・ミュージックを用いて、自信、陽気さ、失望、怒り、そして愛というものが、暗闇に沈んでいくことなく光に向かって闘って進んでいくために、美しく作られたメロディを通じて声を与えられるような瞬間のためのサウンドトラックを作り上げた。

Hype Nostalgia』を通じて、Lopezの柔らかく甘い声はさざなみのようなピアノ主導のメロディ、ブロークン・ビーツ、そして希薄なシンセによって強調されている。しかし彼女の歌詞はいつでも深く切り込んだものになっている。R&Bバラードの “Come Around Me” は、音楽業界で有色人種のクィアの女性であることの苦しみを事細かに綴っている。 “Trauma”、“Post Trauma”、そして “Free Throw” はアルバム全体のゆったりとしてムードから逸脱し、よりダークな側面を導入することに成功している。ドロドロとしたシンセ、ハードなトラップ・ビート、チョップド・アンド・スクリュードされたサンプルを背後にLopezは自分が継承したトラウマを探求している。アルバムの最後に収録されているむき出しのピアノ・バラード “The Last Wave” は、父親に向けられた感動的なトリビュートであると同時に、現実を認めるという行為としても機能しているーー悲しみと向き合って、新しい現実を受け入れること。『Hype Nostalgia』がローラーコースターだとしたら、“The Last Wave” はLopezがそこから降りて、変わってしまった世界と向き合う音である。

By Amaya Garcia · September 29, 2020

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