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<Bandcamp Album Of The Day>RVG, “Feral”

陽気な2作目『Feral』で、メルボルンのロッカー・RVGはオーストラリアで最も活発なアクトの一つであることを知らしめている。リード・シンガーであり、ソングライターであり、ギタリストでもあるRomy Vagerはいまだに犯罪者やアウトサイダーの視点から作詞をしており、暴力と報復のおどろおどろしい場面を描いている。しかし、フックがキャッチーになりメロディにも磨きがかかった一方で、彼女が優しい世界を求めて泣き叫ぶ声は切実さを失ってはいない。

Nick CaveやPJ Harveyとも作業をしたことがあるVictor Van Vugtによるプロダクションがこのバンドの持つ驚異的な作曲を前面に押し出し、彼女たちの2017年のデビュー・アルバム『A Quality of Mercy』の特徴だったザラザラ感を削ぎ落としている。ここでは編曲が80年代のインディー・ポップの純粋さを持って輝き、時折グラムやシューゲイズの要素もまぶされている。Vagerのジャングリーなギターが先頭を行き、彼女の声が生々しく騒々しい対を成している。

彼女はダーク・コメディへの執着を捨ててはいない。こっけいな“Christian Neurosurgeon”では信心深い医者が同僚に誤解されていることを嘆いている。「友達がみんな私を笑ってこう言うの、『延髄に十字架は見つけられたかい?』と」Vagerはそう唸ると、ドリルの回転音が音を立てる。楽天的な良曲“Little Sharkie And The White Pointer Sisters”では登場人物がこう述べる。「集中できないし、眠りにつくこともできない。コーヒーのせいかもしれないけど、多分スピードのせい」

しかし、賢く短いジョークやB級映画の興奮以上に、『Feral』の曲の多くは破滅的なほどにパーソナルな内容である。“Help Somebody”ではVagerはオンライン上で一日中議論を交わしたあとに感じた幻滅感と苛立ちを事細かに語っていて、彼女自身は「ただ人を助けたかっただけだったのに」と懇願している。アルバムの最後を飾る、じわじわと盛り上がる7分間の“Photograph”ではダンテに似た人物を精神疾患ウロボロスと我々の人生であるところの鏡の間へと降ろしていく。この曲の主人公は、自分が生きる現実よりも遥かに安定した光景の写真を額縁に入れながら、故郷を離れていった人たちに復讐することを夢見ている。「写真で見るほど悪くは見えないものだ」とVagerは必死になって歌う。

アルバムの1曲目“Alexandra”は今日に至るまでの彼女たちの楽曲の中でも最も強力なものの一つであり、過去のRVGの歌詞のスリルを、自分を憎む世界で行きていかなければならないトランスの人間たちの恐ろしい現実を通じて濾過した、クィアの団結のアンセムである。「月曜日の朝がくれば、あなたは私が死んでいるのを見つけるかもしれない」とVagerのキャラクターが歌う。「あなたは言うでしょう、こうなるとわかってた、時間の問題だったと/そんな格好をしているってことは、本当に死にたいと思っていたんだと」RVGの曲全てに言えることだが、その物語はそこで完結するわけではない―Vagerはわかりやすい抗議のアンセムを書くことに興味はないのだ。しかし彼女が「little sister」―この曲のタイトルにもなっている―に呼びかける声の中には切迫したものを感じ取ることができる:「あなたにしがみついている」排斥に直面しているVagerの反抗的な愛と希望は何よりも過激なのである。

By Sophie Weiner · April 27, 2020

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