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<Bandcamp Album of the Day>Svalbard, “When I Die, Will I Get Better?”

ブリストルSvalbardはこの過去8年の間、ブラック・メタルのメロディックな部分とハードコアのリズム的な破壊感を組み合わせるサウンドを鳴らしてきた:その特徴は美しさと暴虐さによって等しく定義され、抑圧的な権力者たちに抵抗する歌詞がそれを強調している。3枚めとなるフル・アルバム『When I Die, Will I Get Better?』はそれらの衝突を、彼らの浄化的なスケールを拡大した、より広くスペーシーなサウンドで探求しているが、彼らの名刺代わりとも言える、リスナーに寄り添うような感情的な強烈さを失ってはいない。(彼らはもともとHoly Roarからアルバムをリリースするつもりでいたが、Alex Fitpatrickの性的暴行が公に告発されたことを受けてレーベルとの関係を断ち切った:そしてアメリカではTranslation Loss Recordsから、ヨーロッパと日本ではそれぞれChurch Road RecordsTokyo Jupiterがプレスを担当することになった。)

スペース・ロック、オルタナティヴ・ロックはSvalbardの音楽を長い間彩ってきたが、『When I Die, Will I Get Better?』でこの2つは中心的役割を担っている。“Listen to Someone” や “What Was She Wearing” のような楽曲は吐息混じりのクリーン・ボーカル、ミニマルなパーカッション、そして空っぽのスタジオ部屋に置かれた15ワットのアンプから鳴らされているような軽いディストーションがかかったギターのサウンドに焦点があたっている。こういった瞬間において、SvalbardはMazzy Starのようなバンドを魅力的なものにしている親密さのようなもの、つまり精神的な不健康やミソジニーと格闘する一人称視点の語りによって補強されるカタルシスを獲得している。「何日も眠っていない/何日も人と話していない/大丈夫じゃない状態でいても大丈夫、なんて言葉はかけないでくれ/そして俺の話す言葉にたじろぐがいい」という “Listen to Someone” の歌詞はメタファーやその他の修辞的装置を剥ぎ取り、彼らがすでに突き詰めてしまったヘヴィ・ロックにおける言葉の比喩的用法は認めながらもそれを突き抜けていこうとしている。

彼らの楽曲は眼を見張るものであるかもしれないが、Svalbardは彼らの個人的物事の泡の中に長くとどまったりもしない。ベッドルームの柔らかさとタイタニックのようなリフを対置することで、ギタリストとボーカリストの二人=Serena CherryとLiam Phelanは作品の中のヘヴィな要素をより流動的なものに変え、その衝撃をより破壊的なものにしている。それがジャンルを次々に変えていく手腕と、バンドの非凡なアレンジ能力を研ぎ澄まし、『When I Die, Will I Get Better?』をSvalbardの作品の中で最も充実したものにしている。

By Joseph Schafer · September 30, 2020

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