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<Bandcamp Album of the Day>Beverly Glenn-Copeland, “Transmissions”

Beverly Glenn-Copelandの音楽は美しさ、憐み、そして変化というのはいつだって可能であるという信念によって輝いている。彼がたどった道筋は極めて特異である――1970年代にジャズに影響された一連のソロ・アルバムを発表したところからキャリアをスタートさせたのち、その後の20年を子供用テレビ番組専門の作曲家/演奏家として過ごした(カナダの番組「Mr. Dressup」、「Sesame Street」、「Shining Time Station」などを手掛けた)80年代に入ると彼は電子音楽の作り方を会得した。シンセの先駆者のひとりであった彼は2002年、トランスジェンダーの男性であることをカミング・アウトした。70歳代半ばで舞台上に再び姿を現して以降、この何十年にもわたるジャンル分け不能の録音物が今回キャリア全体を見渡すことのできるコンピレーションとして集められ、Copelandが世界のケアについて発信してきたメッセージを多様な側面から示している。

この『Transmissions』は年代順に並べられてはおらず、彼の愉快なライブ・パフォーマンスと同じようにいろんな時代に次々に飛び移っていくつくりになっている。2004年の『Primal Prayer』収録のオペラ風のエレクトロ・ポップ “La Vita” で幕が開いたかと思えば、すぐさま1986年かセットでリリースされた『Keyboard Fantasies』のめまいがするようなシンセの祈りである “Ever New” へとタイムトラベルしていく。1970年のシングル “Color of Anyhow” を2019年のライブで再解釈した音源では過去と現在が同時代性を持って提示されている。するとその後15年ぶりの新曲となる “River of Dreams” の変拍子の奔流が我々を飲み込む。このコレクションがあなたにとってCopelandの音楽への入り口になっているのか、それともこれまでも聴いてきたものの最新の形であるというだけなのかにかかわらず、『Transmissions』は、多くの側面を持ち、一生称賛されていくべきこのアーティストの概観をつかむのにもってこいの1枚である。

By Jesse Locke · September 25, 2020

Beverly Glenn-Copeland, “Transmissions” | Bandcamp Daily