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<Bandcamp Album of the Day>Lunch Money Life, “Immersion Chamber”

Lunch Money Lifeがそのデビュー・アルバムのタイトルを『Immersion Chamber』と名付けたとき、彼らは自分たちの孤立した部屋(=chamber)につけられることになろうとは思っていなかった。リリースから2週間後、イギリスはロックダウンに入り、彼らのアルバム・ツアーはキャンセルされ、我々がよく知っているように日々の生活は永遠に変わってしまった。

「この『Immersion Chamber』があまりにもうまく紡がれているために週末を予言してしまったのではないかと疑わざるを得ない」とこのロンドンのバンドは4月のインタビューで語っている。「でも、ひょっとすると私達の<イヴ>は本当は私達にとっての<夜明け>なのかもしれない」。もちろん彼らは皮肉を言っているのだが、このような「地獄の責め苦」のような言葉にこそ、イースト・ロンドンの小さな教会の小部屋で生まれたこのアルバムの起源の手がかりがあるのかもしれない。防音のための賛美歌の本以外はなにも持たずに始まったこれらのリハーサル・セッションはLunch Money Lifeを終末の中でインダストリアルなリフ(“Truth Serum”)、ゆったりとしたファンク(“Superego”)、そして偏執狂的なひねり(“Living3000”)などを言ったり来たりするようなサウンドに向かわせた。

Spencer Martinとその兄弟であるJack Martinがブラスと電子音をプランダーフォニック的なパッチワークに仕立て上げ、ギタリスト=Sean Keatingの白熱したノイズと、デス・ジャズとロー・エンドを組み合わせたようなLuke Mills-PettigrewとStewart Hughesによる重量級のリズム隊による、絶え間なく移り変わるリズムのモザイクがそれを増幅していく。過去の音楽からの影響(『King Of Limbs』期のRadioheadのようなグルーヴやJaga JazzistBadbadnotgoodのようなクロスオーバー的なアーティストなど)は明らかに感じられるが、このバンドの真の音楽的同胞は、マーキュリー賞にもノミネートされたThe Comet Is Comingなどの、ロンドンに菌糸体のように広がるジャズのネットワークである(The Comet Is ComingのプロデューサーDanalogueが本作のレコーディングにも関与している)。そしてこの堂々たる結果である。穏やかな人々がベッドの下に這いつくばって祈りを捧げる間、『Immersion Chamber』は恐怖よりもむしろ畏敬の念を持ってこの終末を見つめている。

By Chal Ravens · November 02, 2020

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