海外音楽評論・論文紹介

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<Bandcamp Album of the Day>Deerhoof & Wadada Leo Smith, “To Be Surrounded By Beautiful, Curious, Breathing, Laughing Flesh Is Enough”

先駆者であるYo La Tengoと同じように、Deerhoofはあまりにも長い間いい作品を作り、いろんなことに関心を持っているために、その存在を当たり前に思ってしまいそうになる。90年代後半の騒々しい『The Man, The King, The Girl』のような稀有な例外もあるが、このバンドは尖ったギターやノイズを好むようなガツガツしたインディー・ロック・バンドであることと、素早く、そして深く突き刺さるようなフックを持った磁力を持ったポップ・アクトであるという、二つの相反したバランスを完璧に成し遂げてきたのである。

5作目となるライヴ・アルバム『To Be Surrounded By Beautiful, Curious, Breathing, Laughing Flesh Is Enough』(の前半は、ソーシャル・ディスタンスの時代においては悲しく切なく響くWalt Whitmanの傑作から拝借された)の前半は、このバンドが長い間書けて築いてきた業績を要約し、我々に思い起こさせるものである。ニューヨークで開催された2018年のWinter Jazzfestのヘッドライナーを務めた際に録音され、6曲で1997年から2017年までのキャリアをまとめ上げる。元気付くような初期の楽曲 “Polly Bee” をサクッとやってのけたあと、Fountains of Wayneが楽しげにForeignerをカヴァーしているかのような、抑圧に打ち勝つことを歌ったトランプ時代のアンセム“I Will Spite Survive” の素晴らしいテイクを絞り出す。Satomi Matsuzakiの楽しげなリードと彼女を取り巻く、殴りかかるようなロック・バンドの駆け引きは完璧であり、それは20年かけてこのダイナミックな均衡を追求してきた結果である。

しかし後半の5曲――この時代で優れたコンセプチュアルな作曲家でありトランペッターであるWadada Leo Smithとの一回限りのコラボレーション――こそ、Deerhoofというバンドが持つ柔軟性の証左である。Smithはすぐさま、ファンキーな “Snoopy Waves” に朗らかな疾風を吹かせたあと、シュールレアリズム的なブルースを奏でるクライマックスへとシームレスに移行していく。“Breakup Songs” では咆哮を上げ、ギターのアグレッションにギザギザした対応物を与えている。“Last Fad” ではノイジーな発作から遊び心たっぷりに縺れたあと、一緒にやれていることに対しての祈りのように感じられるパートへと突入していく。ひょっとするとこの取り合わせは奇妙かもしれない。しかし輝かしい20分間の間、SmithとDeerhoofはそれぞれのキャリアを決定づけてきた冒険という言語を共有しているように思えるのだ。

By Grayson Haver Currin · July 16, 2020

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