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<Bandcamp Album of the Day>C. Diab, “White Whale”

謎多きC. Diabの3作目となる『White Whale』を聴いていると、あなたは限りなく根本的な疑問を抱くようになるかもしれない。このバンドには何人いるのか? そして何を演奏しているのか? そしてこの音楽のジャンルには果たしてどんな意味があるというのだろうか? 下手くそな修繕のようなテープ・コラージュ“Haunter”はあらん・ローマックスが収集したかのような古代のフィールド・ホラーに、ピンク・フロイドを歪ませたようなピッキングが隣接している。瞑想的な賛美歌“Cubensis Yellow Fire”では炉のパイロット・ランプのように点滅するオルガンが伸び縮みするストリングスを支え、恐怖の後のゆっくりと安定した一連の呼吸のようである。そしてさらには堂々とした1曲目“The Dark Years”では蒼光するディストーションロングトーンの潮のようなハーモニーがポスト・ミレニアル期の絶頂期のSigur Rósの優雅さを思わせる。一体、この予測不可能なチャンバー・アンサンブルは誰・何が何のためにやっていることなのだろうか?

種明かしをすると、C. DiabとはCaton Diabの略であり、ヴァンクーヴァーのプロデューサーでありマルチ楽器奏者で、これらの念入りに作り上げられた小品たちは全て完全に自作である。『White Whale』は市民の間に広がる不安と、およそ達成不可能であるように見える持続可能な社会の進歩の模索にインスパイアを受け制作され、Diabはこれまでのトランペットの探求からいくらか距離を置き、弓弾きのエレクトリック・ギターを用いて絶対的な緊張状態の情景を描き、救済がどのような音であるのかを探求している。

突き刺すようで、すり減らすようで、ドラマティック。弓で、そして叩くことで鳴らされるギターは単なる6弦というよりは、Eilliot Carterのカルテットやメタル・チェリスト=Helen Moneyの近作のようである。“Street Scenes”はこのような寡頭政治の時代に声を上げようとする人々の闘争を記録している。“Blasted by an III Planet”は揺らぐエコシステムへの挽歌であり、雪を冠した山や終わりのない砂漠のように豪華で、しかしそれでいて夕暮れ時にそれが暗がりの中に沈んでいくのを見るのと同じようにほろ苦い。『White Whale』は我々の不安で悲しみに溢れた時代に寄り添うが、同時に我々を駆り立てさせもしてくれる。ポスト・ロック的なヒロイックさだけではなく、そのコンセプト自体によって。たった一人の人間がこのような鋭さを利用することができるのならば、数百万人が集まれば何ができるか、想像してみよう。

By Grayson Haver Currin · June 08, 2020

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