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<Bandcamp Album of the Day>Margo Price, “That’s How Rumors Get Started”

70年代後期〜80年代初期のTom Petty & The Heartbreakersの全盛期のあいだ、Pettyの友人であるStevie Nicksがバンドの一員になりたがっていたというのは有名な話である。もしそれが現実になっていたら、それはこのMargo Priceの3作目『That's How Rumors Get Started』のようなサウンドになっていたかもしれない。Heartbreakersのキーボーディスト、Benmont Tenchがこの作品に参加していること、そしてPriceの “Gone to Stay” に “I'm getting older, too(私も年をとった)” という一節が含まれていることが一番の理由ではある。

Priceのこれまでのアルバム2枚は彼女をグラミー賞にノミネートされ、Willie Nelsonとデュエットしオルタナ・カントリー界で最も愛されるアーティストの一人へと押し上げた。しかし『Rumors〜』(Fleetwood Macの『Rumours』ではなく)はPriceの作品の中で最もカントリーらしくない作品である。彼女はよりロック方面に舵を切り、スロウな曲でさえ70年代のサザン・カリフォルニア〜フォーク・ロック的感覚を持っている。このセッションがLAの由緒あるスタジオで、NicksとPettyにも縁の深いEastWest Studioで行われたのは必然であった。

しかし、『Rumors〜』は1980年代の作品であっても、今から40年後の未来の作品でも、そしてもちろん今の時代の作品であってもおかしくない。ザクザクとしたブルージーとしたリフにのせてスターダムの危機を歌う “Twinkle Twinkle” と “Letting Me Down” でのLaurel Canyon風の鼻にかかった歌声はこの作品の中でも優れたハイライトの二つであり、Priceの経験豊富なヴォーカルと彼女のムーディなメロディへの惹きつけられ方を立派に示している。オルタナアメリカーナ畑のSturgill Simpsonによってプロデュースされたこの作品は部屋の中の空気に耳を澄ませてしまうほどの風通しの良さで、物悲しく鳴り響くピアノのリックや、甘く押し寄せるようなオルガン、そして暖かく心地よいベッドのようなアコースティック/エレクトリックの爪弾きが、裏切りや依存的な関係性、そして甚大な間違いから得られる教訓といった物語をルーツ・ロックに乗せて運んでくれる。後悔に満ちた歌詞でありながらも、『How Rumors Get Started』は、アーティストが元気たっぷりに、自分のロックする権利を抱きしめているような作品である。

By Jim Allen · July 14, 2020

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