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<Bandcamp Album of the Day>Hum, “Inlet”

問題:バンドのディスコグラフィーの中で傑作とされている再結成アルバムはどれだろう?オリジナル・メンバーによるDinasour Jr.が2008年の『Beyond』でそれを成し遂げている。80年代後期におけるほろ苦い終焉を考えると驚くべき帰還であった。『Dopesmoker』の発表から20年後、Sleepは十分に長い間肺から煙を取り除くことに成功し『The Sciences』を作り上げた。しかし、The PumpkinsThe PixiesRefusedはどうだろうか?多かれ少なかれ、ロック・バンドの再結成作というのはツアーを行い、過去の名曲を現金に変えるための許可証に過ぎず、そのツアーで新曲を披露するのは歳を重ねたファンがトイレ休憩に行きやすくするためである。しかしここでHum――素晴らしくヘヴィなギターと優雅で優しい感情をもつ、長年のイリノイの負け犬たちである――が成し遂げた2重の奇跡を称えるべきである。彼らの22年ぶりのアルバム『Inlet』は彼らの歴史の中で最も注目されるべきアルバムであり、”Stars” をアンコールにとっておく、なんていうことができないこのご時世においてこの作品が出たのはサプライズであると言える。再結成作が必要な作品だったと思わせるのは難しいことだが、Humはそれを成し遂げたのである。

四半世紀前、Humはそのオルタナ・ロックの時代にあまりフィットしなかった。小さなヒットを記録したものの、Humはメインストリームには多面的でダイナミックすぎて、長い間チャートに常駐するにはアンプへの信仰心と詩的な悲しみに関心を持ちすぎていた。しかしRCAから出ていた最後の2作は奇妙な洗練を見せており、それはインディー・ロックの興隆の逆を行くものだった。エモの優勢とシューゲイザーの低迷、ラジオ向けのプロダクションとほとんど喧嘩腰とも言えるヴォリュームの間に永遠に嵌ってしまったHumは、同時代の、例えばCollective Soulよりも洗練されていた存在であり、奇妙な売れ方をしているが、自分で見つけた時に興奮するような、そんなバンドだった。

『Inlet』が届けられた現在、そのような境界というのはいまだかつてないほどに恣意的になっている。Humは今度は自分たちが望むようなサウンドに落ち着き、叫ぶかのようなリフと秘密をささやくようなヴォーカルを持つダブル・ギターのロック・バンドであることに満足している。これらの8曲の中で彼らはドゥーム・メタル、ポストロック、エモ・リヴァイヴァル、マスロックなどに目配せをしながら、それらはすべて非凡で必要性のある作品になっている。

”Step Into You” は彼らの中でも最も直接的な楽曲である。シロップのように甘いテーマとMatt Talbottによる失恋の賛美歌の後ろでバンドが轟音を鳴らす。”Cloud City” はそのタイトルにもある二重性を重んじており、繊細な楽曲とどもるようなリズムに対して壮大なギターが鳴らされている。ホメロス風の最後の楽曲 ”Shapeshifter” は最も複雑な構成を持つ曲でありながら、Hum史上最も覚えやすいコーラスとリフの一つを持っている。この広大さの中で迷うことはない。そしてサウンドは聴き手を元気づけるようでもある――ヘッドフォンを頭蓋骨に押し付け、爆音を鳴らしているこれらのアンプの中を登ろうとしているような感覚にさえなる。

感情が押し寄せている “Desert Rambler” の冒頭で、Talbottは過去を見返し、後悔を思い出す:“Halcyon days long wasted, departing our shores/A respite from dark that was useless, and I get no more(平穏な日々は空虚で、俺たちは岸を出た/暗闇からの逃避は無意味で、これ以上は無理だ)”と彼は吠える。彼の声はエフェクトによってまるで遠くから吹いてくる風に乗っているかのようだ。時の容赦ない行進、これが多くの楽曲をつなぎとめている主題である。革は岩を割り、ツタが建築の上を這い、記憶は亡霊となる。このような侵食、死すべき運命の感覚が『Inlet』の原動力になっているかも知れない。アルバムの曲は牧師の説教のように、何を伝えたいかということにこれまでにないほどの自信を感じる。結局の所、Humのアルバムがあと何枚作られるかはわからない。少なくとも今の所、『Inlet』は全く予想だにしていなかった、力強い贈り物である。

By Grayson Haver Currin · June 29, 2020

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