海外音楽評論・論文紹介

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<Bandcamp Album of the Day>Luiz Carlos Vinhas, “O Som Psicodélico de L.C.V”

O Som Psicodélico de L.C.V (“The Psychedelic Sound of L.C.V”) 』は1968年当時ほど激烈な聴取体験ではないかも知れないが、この名高いボサノヴァ・ピアニストであるLuiz Carlos Vinhasによる古典は時の試練に耐え続けている。このアルバムは優雅に、間違いようのないほどにブラジル的であり、トロピカリアやボサノヴァにジャズ的な歪み、そして動物や鳥の鳴き声、スポークン・ワードといった斬新な装飾を加えている。これらの10曲は地に足がついているとともに、繊細で複雑なフレージングでグルーヴすることに長けているこのピアニストの器用なタッチによって推進力を与えられている。

17歳のときに始まり、61歳での早すぎる死によってそれを終えるまで、キャリアの間中Vinhasは引っ張りだこのピアニストであり、ボサノヴァ初のインストゥルメンタル・グループ、Bossa Trêsの一員であった。彼はJorge Benなどの他のブラジル人音楽家の伴奏を務めることが多く、『O Som Psicodélico de L.C.V.』の他にはソロ・アルバムを5作しか録音していない。ここには1曲目“Amazonas”(同時期に活躍したピアニストでボサノヴァの父であるJoao Donatoによる作曲)のようにアイコニックな曲のカヴァーも収められている。VinhasはDonatoのクラシックにスムースでスウィングする感覚を嗅ぎ取り、似たようなアプローチを他のジャズ・スタンダード“Song for my Father”(ピアニスト/作曲家/バンドリーダーであるHorace Silver作)にも適用している。ジャズ・スタンダードである“Chattanooga Choo-Choo”と“Don't Be That Way”にWilson Simonalの“Tributo a Martin Luther King”をつなげたメドレーのような、意外で興味深いマッシュアップも収録されている。

しかし、アルバムの中で突出しているのはやはりVinhas自身の作曲であり、そのアフロ=ブラジリアン的要素である。鳥や動物の鳴き声が聴こえる中でホーンがギターのコードを包み込み、ホーン、ピアノ、ヴォーカルの間をゆったりと旋回するソウルフルなチューン“Tanganica”もその中に含まれる。ヨルバ族の水の女神=イマンジャに捧げられたグルーヴィな賛歌“Ye-Mele”はウンバンダの信者たちのチャントがホーンとともに織り込まれている。最後の曲“O Dialogo”には古典ブラジル音楽の作曲家であるChico Feitosaがフィーチャーされていて(その他の楽曲にも参加している)、ヴォーカルの反復、スポークン・ワードやオノマトペといった、数十年後にサンパウロBarbatuquesなどのアンサンブルが作品の中で中心的に用いるようになる要素を統合していた。タイトルやジャケットが暗示するほどにはワイルドでサイケデリックな感じはしないかも知れないが、ボサノヴァやトロピカリアといった音楽的封筒を探索し拡張するような、驚くべきほどに新鮮な作品であり続けている。

By Catalina Maria Johnson · June 01, 2020

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