海外音楽評論・論文紹介

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<Bandcamp Album of the Day>Gerry Weil, “The Message”

1971年、ベネズエラのピアニスト/作曲家=Gerry Weilはジャズ・フュージョンのムーヴメントの最盛期に現れた野望に満ちていて強烈な作品『The Message』を発表した。当時、Soft MachineやMahavishnu Orchestra、Weather Reportといったバンドたちが爆発的なジャズの即興演奏とロックの若いエネルギーの混合物を掘り当てていた。『The Message』はフュージョン界のより人気のある代表者たちのような商業的な成功を収めることはなかったが、この作品は今回ロンドンのレーベル=Olindo Recordsから愛に満ちた再発を受けることとなり、現代のリスナーたちにこの見過ごされてきた名作を発見する機会を与えてくれている。

アルバムの1曲目 ”The Joy Within Yourself” はブルースを基調にしたジャムで、大胆なブラスのアレンジメントがまばゆい。狂気じみた、ビーフハート風のリード・ヴォーカルでセンターに立つのはWeilである。「空を見上げ、一生懸命星を数えたことはあるかい?」Vinicio Ludovicがワイルドでディストーションのかかったギター・ソロで登場すると、全体のサウンドはまるで地獄からやってきたラス・ヴェガスのショウ・バンドのようだ。”The Bull's Problem” はドライヴしていてエネルギーに満ちた楽曲で、より大きなブラスのアレンジメントとWeilのうねるような電子ピアノのソロによって増大していく。

コルトレーンに影響されたモーダル・ジャズ ”Johnny's Bag” やタイトルトラックのサイケデリックな陶酔に頭から飛び込んでいくこのアルバムは、Weilのユニークな音楽的精神を見せつけてくれる。現代の音楽ヘッズにも魅力的な作品ではあるが、かたくなに「その当時」の空気をまとったこの『The Message』は、ジャズとロックの組み合わせが開けた未知の音楽的可能性だった、爆発的な時代を思い起こさせてくれる。

By John Morrison · January 13, 2021

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