<Bandcamp Album of the Day>Jonny Nash & Suzanne Kraft, “A Heart So White”
Jonny NashとSuzanne Kraft(プロデューサー=Diego Herreraの変名)による穏やかなアンビエント・ミュージックは、まるでほとんど何も残らないほどに削ぎ落されたかのように聞こえる。Nashはこの柔和なミニマリズムに対する探究は、静かで、希薄ながらもとてつもなく美しい作品として自身がアムステルダムに設立したレーベル=Melody As Truthからリリースされている。L.A.のエレクトロニック・バンド=Pharaohsでキーボードを弾いていたこともあるHerreraは、彼自身の最も牧歌的な作品をNashのレーベルのために取っておいた。この二人による最初のコラボレーション・アルバム『Passive Aggressive』(2017)はすべてコンピューターのソフトウェアを使って製作されたものであるが、その優しい音の一つ一つに驚くほどの空気感が保たれていた。どれだけ加工されたものであっても、二人が一緒に作る音楽からは化学反応と意思疎通の感覚が伝わってくるのだ。
NashとHerreraは『Passive Aggressive』以降にも、アトモスフェリック・ジャズのレジェンドのGigi Masinを招いたスピリット・コンピレーションを含む多くの録音物をリリースしているが、二人による2作目『A Heart So White』は、この二人の輝かしいコラボレーションにおける意外ながらも価値のあるターニング・ポイントとなっている。二人はぜーぜーと息を立てるような機械式オルガンと繊細なスタインウェイのピアノを中心とした完全なるアコースティック・セットへと切り替えているのだ。しかし空間と穏やかさは幸福感と静謐さを保ったままである。ここにおいては無音は音と同じく重要である。銀色のピアノの音色の群れが現れては立ち消えて、次の音色が浮かんでくるための莫大な空間を作り上げている。
空間の感覚が最大の特徴であるこのプロジェクトにあって、作品全体を通して呼吸しているオルガンは命といってもいい。1曲目の”The Pearl”や”Guilt Or Fear”ではコンスタントな音や鼓動が流れ、そのそびえたつような楽器は彷徨うようなギターの音に対して温かく親密な土台を作り上げている。吸い込まれそうになるほどのパワーの中で一つ一つの静かな瞬間が積み重なっていき、それは最後から2曲目の”Knife”で柔らかなピークを迎える。リズム的に繰り返される音によって句読点を打ちながら――その絶妙なスタッカート・パルスはこのアルバムの中で最も鋭い音に近いものである――この曲はだんだんとピアノ、ギター、そして電話機のタッチ・トーンを折り込みながら、甘美な9分間を提供してくれる。ミニマリスト・エレクトロニック・ミュージックを「アンビエント」と呼びつつ似たようなアコースティック由来の音楽を「アカデミック」と聴き誤るというのは簡単だが、『A Heart So White』はボーダーレスで何にもとらわれていないように感じる。その広大な音のタペストリーにはクラシック、ジャズ、アンビエントの余地も作りつつ、まるで地平線のように広がっていくのだ。
By Miles Bowe · May 08, 2020