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<Bandcamp Album Of The Day>Quinton Barnes, “AARUPA”

アーティストの中には制限をいかに取り払ってしまっているかという点しか分類できないものがいる。ポップ、ソウル、R&Bの説得力のあるエネルギーから、エクスペリメンタルな空間への勇気ある探求へと容易に移行するトロントQuinton Barnesはまさにそのようなアーティストの一人だ。彼の最新アルバム『AARUPA』では、彼の革新的なプロダクションと変幻自在の歌声が、影から逃げることから始まり、最後には他人に対してだけではなく、自分自身に対する愛にも向かって勝ち誇るように走り出すという、感情的な旅を描き出している。

タイトル曲の“AARUPA”では、棚に乗った植木鉢を震わせてしまうほどの図太いベースに支えられたクラブでもかかりそうなトラックの上でピッチの下げられたヴォーカルが響き渡る。BarnesのラップにはまるでZé TaylorQuay Dashといったアンダーグラウンド・ラッパーのような雰囲気がある。“This Moment”では魅惑的で脆い恋人たちのデュエットを聴かせ、“TRU VBVA”で聞かれる自己防衛の呪文は曲が終わった後も長く残響するようになっている。

Barnesの天使のような歌声が我々を天国へと導いていくように、彼は何度も何度も我々を宇宙空間を抜けて、ダンスフロアの粘り気のある肉欲的な熱気へと突入させる。“FEMMEDOMME”は6分間の尺の中でメロディーとリズムが変形していく、コソコソとした、そしてチャリンチャリンというようなプロダクションである。ミニマルなパーカッションが金属同士が触れ合うような音を呼び起こし、ヴォーカルだけが深部で鳴っていて、タイトルの官能的なニュアンスを表現している。

“NONBINARY”において、Barnesは伝統的なラヴ・ソングを再解釈し自分を愛することについての幸福感あふれるアンセムに仕立て上げている。彼の静かでソウルフルな歌声の親密感がカリビアンのスティールパンを思わせる快活なシンセのモチーフとコントラストを成している。恐怖や孤独を感じるときにこそ自分自身を選び取ることの重要性を信じる彼の信念はこのプロジェクト全体に反響していて、居場所のない人々に属するための空間を作り上げている。

By Lorena Cupcake · March 23, 2020

Quinton Barnes, “AARUPA” | Bandcamp Daily