海外音楽評論・論文紹介

音楽に関するレビューや学術論文の和訳、紹介をするブログです。

<Bandcamp Album Of The Day>Hailu Mergia, “Yene Mircha”

Hailu Mergiaの音楽を一つの言葉やラベルでくくろうとするのは愚か者のすることである。このエチオピア生まれのマルチ奏者はジャズ、ファンク、そしてエチオピアのポピュラー音楽を融合させたパイオニアとして母国で名声を得た。80年代初期にワシントンDCに移って以来彼のパレットはさらに豊かになり、レゲエやR&Bの要素も取り入れながら拡張されていった。

Mergiaの最新アルバム『Yene Mircha』には、その膨大な数のアイデアが展示されていて、それだけでも目を見張るものがある。1曲目の“Semen Ena Debub”はまるでだまし絵のようだ。Mergiaのアコーディオン、Abraham Rezene Habteのギター、そしてSetegn Atenawのマセンコ(一弦の弓型の楽器)がAlemseged KebedeのベースとKen Josephによるドラムに伝統主義的な手触りを縫い込んでいくような、魅惑的な揺らぎを聴かせてくれる。曲の終わりに喜びに満ちたハード・ファンクに突然なだれ込む展開には驚かされる。アコーディオンがこれほどハードにグルーヴできるなんて誰が思うだろう?続いて始まるのはエチオ・ジャズをめぐる長旅(“Yene Mircha”)、ダブ・レゲエ(Mergiaがピアノ、オルガン、シンセを演奏している“Bayne Lay Yihedal”)、ファンク調にアレンジされたエチオピアの伝統的楽曲(“Abichu Nega Nega”)、そしてゴスペル調のソウル(“Yene Abeba”)だ。最後の曲“Shemendefer”はこれらすべての要素を全て結びつけることに成功している。バウンシーでポリリズムも用いているが、Kebedeが思うままにベースのインプロ(Mergiaも少しオルガンのリフをアドリブで入れている)を行うことができる余裕があるほど穏やかな楽曲である。

その万華鏡がもうめまいをさせるようなものではないかのように、考えても見てほしい。これはすべて35分未満の間に起こっていることだ。その限られた空間の中で、音響的にそれらを貫いているのはMergia、Kebede、Warrenの3人のコンビネーションによるリズム隊である。Mergiaの音楽を一つのラベルでくくるのは十分に適切ではないが、「グルーヴ」という言葉が最もそれに近いのかもれない。

By Michael J. West · March 24, 2020

Hailu Mergia, “Yene Mircha” | Bandcamp Daily