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<Bandcamp Album Of The Day>Pharoah Sanders, “Live In Paris (1975)”

1975年には、Pharoah Sandersは嫌々ながらフリー/スピリチュアル・ジャズの世界でスターとなってしまっていた。彼は有名になろうとはしていなかった。ニューヨークで住む場所もなく、食べ物のために自分の血液を売るような生活を何年もしていた彼にとっては、ちゃんと食べれて住む場所が得られる程度にギグに出られるだけで十分だったのだ。しかし彼の演奏仲間であったJohn ColtraneAlbert Aylerが1967年と1970年にそれぞれ死んでしまった後、Sandersは突如として、金切り声を上げるようなサックスとあ果てしないリズムを通じて天国を目指すために作られた、意識変革をもたらすようなこの新たなジャズの形式の先陣を張ることになった。そのアイデアは、管楽器が十分な音量で演奏すればそれは神の耳にも届くだろう、というようなものに思えた。

Sandersの音楽はそれとは異なっていた。実に異なっていた。彼の作品は消化するのに時間を要するようなものだった。Sandersの1969年のアルバム『Karma』でヴォーカリストLeon Thomasは多くの楽章に分かれた32分の大曲“The Creator Has a Master Plan”の中でヨーデルを披露したが、ジャズのトラックにヨーデルを載せるなんてことはリスナーが経験したことのないことだった。さらにこのサックス奏者特有の甲高い演奏スタイルは、敏捷で顔をしかめさせるほどの雄叫びのようで、The New YorkerのWhitney Balliettはそれを「象の叫び声」になぞらえた。それでもSandersはお構いなしに突き進んだ。1971年、彼はAlice Coltraneの最高傑作と言われることになる、あの『Journey in Satchidananda』に参加し、さらにその後『Thembi』、『Black Unity』、『Izipho Zam (My Gifts)』など自身の優れたソロ作品のリリースも重ねていった。

『Live in Paris (1975)』はPharoah Sanders Quartetが1975年11月17日にGrand Auditorium / Studio 104で行ったライヴの模様を収めている。テナーサックスにSanders、オルガンとピアノはDanny Mixon、ダブル・ベースにCalvin Hill、そしてドラムはGreg Bandy。バンドリーダーの演奏は驚くほど抑制が効いていて、他のプレイヤーに主役を譲っている。それは“The Creator Has a Master Plan”のライヴ演奏にも表れていて、バンドリーダーがのたうち回るようなドラム・フィル、波のように押し寄せるベース、そして古いホラー映画で聴けるようなオルガンのコードをかき分けてバンドリーダーが遠吠えをし、そのその微かな、それでいて一聴してそれとわかるような金切り声がミックスの後ろの方から出現するのは4分が経過しようとするところになってからである。

Creator〜”がある種の破滅的運命に達してしまっているように感じたとしても、続く“I Want To Talk About You”ではまるでロマンティックな散歩のようにスロウなペースになる。それはほとんどスムース・ジャズが出現する前のスムース・ジャズであり、Sandersはいつもより柔らかな音色を出し、70年代後期に彼が向かう方向性を先取りしている。しかしバンドが爆発するのは締めの曲“Love Is Everywhere”でのことである。すべての賞賛が叫び手を叩く中、この曲はマントラで始まる。8分間の中で数回繰り返されるこのマントラはまるで南部のバプティスト教会の祝福のようだ。曲が終幕に向かい編曲が融解しSandersがその中で泣き叫ぶように歌うと、聴衆は雷のような拍手を噴出させる。すべての聴衆が彼の精神性の波に改心したかどうかは定かではないが、この夜の生々しい感情に基づいて考えると、彼の創造的な祭壇に進行を誓った新しいファンも少なくなかったのだろう。

By Marcus J. Moore · March 13, 2020

Pharoah Sanders, “Live In Paris (1975)” | Bandcamp Daily