Pitchforkが選ぶテン年代ベスト・ソング200 Part 2: 195位〜191位
195. Cloud Nothings: “I’m Not Part of Me” (2014)
ゼロ年代からテン年代へ移り変わる中で出てきた有象無象のローファイ・ポップ・パンカーの中で、Cloud Nothingsのフロントマン・Dylan Baldiは歳を取るごとにヤバくなっていく唯一の存在だった。バンドのカタログのちょうど真ん中に位置するこの曲で、Baldiは彼の一見実行不可能に見えるすべての矛盾を息も絶え絶えな行き詰まりになるまで闘わせ、アルバム一枚分に値するほどの珠玉のフックたちとともに放出する。Baldiは吠える。「僕はきみじゃない/きみは僕の一部」と。これは自分の短所や、アイデンティティと取り違えてしまって拘泥してしまっているようなトラウマから開放されるための短いマントラである。過去を怒りにしてはいけない、とこの曲は言う。過去はあなたを前進させるものなのだから。–Ian Cohen
194. Lil B: “Wonton Soup” (2010)
2つの真実:Lil Bは「Galaxy Brain」級の平和、愛、理解を載せた喜びの船である。彼はこんなツイートもしている。しかし精神性が理性に負けてしまう必要はなく、この10年間この”Based God”は自身のオプティミズムとクリエイティヴな自信のヴィジョンにコミットし続け、ベイ・エリアブログ界の碩学からニュー・スクールの正統な英雄へと進化したのだ。この”Wonton Soup”は最初期の頂点であり、準・メインストリームへと波及していった最初の曲である。彼のスタイル面でのトレードマークをすべて見ることができる。延々と続く”woop”というアドリブ、靄がかかったようなプロダクション、バカバカしい歌詞がまるで禅問答の快感に変わっていくように思えるモノトーンなデリバリー。これはBaseGodismについての最良の議論であり、説法よりもいいものかも知れない。–Jeremy Gordon
193. Nilüfer Yanya: “Baby Luv” (2017)
ロンドンから出てきたNilüfer Yanyaはこの”Baby Luv"において、少ないもので多くのことをやってのけている。この曲は彼女の執拗なギタープレイ、切迫した歌声以外にはスポットライトはあたっていない。Yanyaは繰り返しを巧みに使い、言葉やフレーズを楽器のように掌握している。彼女が「Do you like pain?」と聞くとき、その直前の”again”という一単語が何度も何度も繰り返され、その言葉の意味は消え失せてしまう。これが彼女のソングライターとしての「慎ましさ」のいい例である。明るい赤字のブロック体で文字を綴っていくのではなく、彼女は注意深く言葉を選び、それらの最大の力を引き出して爆発させるのだ。この曲のブリッジ部分で彼女が「call me sometime」と歌うとき、その聞き慣れたフレーズは新しく、そして脅かすような形を帯びる。–Madison Bloom
192. Tame Impala: “Feels Like We Only Go Backwards” (2012)
Tame Impalaの音楽はよく脳を溶かすような音楽的探究であると捉えられるが、バンドの中心人物・Kevin Parkerは実はポップスターばりの感情への理解を持っている。2012年作『Lonerism』に収録されたこの曲は、メロディと歌詞だけに注目すれば打ち砕かれた希望と拒絶に関する壮絶な瞑想である。しかしギャロップの歩みのようなベースや、万華鏡のように常に移ろっていくテクスチャと共に聴くと、祝祭的までとは言わないまでも、どこか郷愁的な色を帯びる。「Swimming Pools (Drank)」のヒットと論争も冷めやらぬ頃のKendrick Lamarがなぜこの曲でラップすることに惹かれたのか、これを聴けばわかるだろう。そして、Parkerがこの10年で、どのようにしてヘッドフォンの中の作家主義的ミュージシャンからコーチェラのヘッドライナーまで上り詰めたのか、その答えもここにある。–Marc Hogan
191. Rico Nasty: “Smack a Bitch” (2018)
Rico Nastyのショウに行けば、彼女が発する一語一句に飛び跳ね、のたうち回る10代の女の子たちの群衆を見ることができるだろう。Bikini Killのスローガン”girls to front”の精神で、このラッパーは彼女の最も凶暴な曲をやろうという時は女性だけのモッシュピットを要求する。若い女性たちがそれぞれの怒りを共有できるようなスペースをあえて空けておいた上で、だ。
その抑えがたい怒りの感覚こそ、彼女の出世作”Smack a Bitch”が多くの人々の心を串刺しにした理由である。Kenny Beatsによってプロデュースされた揺らめくような、ギターが鳴り響くトラックでRicoは「神よ、今日はビッチをやっつけなくても良かったことに感謝します」と叫ぶ。まるで誰かに一撃を食らわすことが彼女の日常的なルーティンであるかのように。彼女のデリバリーは半ば精神病の領域に踏み込み、「お前は終わってる」と宣言し、狂ったように高笑いする。Ricoは絶対に誰にも媚を売らない(=take no shit)し、それが見ていて痛快である。–Michelle Kim