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Pitchforkが選ぶテン年代ベスト・ソング200 Part 1: 200位〜196位

まえがき

2010年代、技術の進歩によって音楽の制作、流通、聴取が歴史上のどの時期よりも容易となった。アーティストとプロデューサーはクラウドを通じてコラボレートし、エモ・トラップ、EDM・バラード、インディー・R&B、ベッドルーム・ポップなどとまるで薬の調合のようにスタイルを掛け合わせていった。流通の方法は幾千通りもあり、楽曲が産み落とされたミリ秒後にはその楽曲を聞くことができるようになった。アーティストはこれまでにないハイペースで音楽をリリースするようになった。これら全てが結びついた結果は、幸せと不幸を両方もたらした。史上最も優れた音楽がたくさん出てきた一方で、それら全てについていくのはほとんど不可能になった。しかし、ここPitchforkで我々はそれにトライし続けた。以下が我々のここ10年間のベスト・ソング・トップ200である。

200. Avicii: ”Levels” (2011)

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この曲でサンプリングされている、Etta Jamesの「Oh, sometimes I get a good feeling (時々、いい気持ちになるんだ)」という比較的控えめな主張でさえ、ぱっとしない景気に見捨てられてしまったミレニアル世代にとっては夢のように思えるのである。2011年において、「good feeling」は珍しく、そして高価だった。しかし、このEDMの眩しく輝くフックを通じて我々はそれを無料で一つ、手に入れることができるのだった。どでかいシンセとジェット気流ばりの”whooshes”を持つこの”Levels”という楽曲は、その可能性に賭け、世界を席巻してしまったのだ。 

今になってもこのスケール感には圧倒させられるが、そこには不吉な音が透けて聞こえる。2018年に28歳という若さで自らの命を絶ったTim Bergling。そのステージ・ネームは、仏教において死んだ罪人たちが生き返る地獄のような場所、Aviciからとられたものだった。この曲からはなにか「罰」のようなものが感じとれる。それはまさにミュージック・ビデオの中で男性が丸い石を押して山を登るのと同じように、いつかどこかにたどり着くのだろうと登って登って登り続けているが、それは実は神のいたずらでありそこは実は平らな辺獄だった、という幻想である。2010年代初頭のエレクトロニック・ポップ・ミュージックー”Harlem Shake”から”Turn Down for What”までーはどんよりした部屋でつまらなそうな仕事をしている人々が制御不能で発作的なダンス(これは楽しさの発散であり悪魔祓いでもある)を突然踊りだすというイメージによって区切ることができる。この曲はなんとかして「good feeling」をゲットしたい、現実なんかくそくらえだ、というこの世代が鳴らした音なのだ。–Emily Yoshida

199. Stormzy: “Big for Your Boots” (2017)

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近所のサウス・ロンドンの路上で、ハード・エッジなグライムのビートの上でノンストップでスピットするDIYのフリースタイル動画をアップロードしていたStormzyは、今や世界的に有名なMCになった。彼の折衷的なデビュー・アルバム『Gang Signs & Prayer』の中のキラーチューンであるこの曲が、彼がDizzee RascalやWileyといったグライム・レジェンドの次の座に就くにふさわしいことを証明する凄まじいラップとあからさまなカリスマ性にあふれていることは、その出自を考えると理にかなっている。この楽曲でStormzyは彼の敵やラップ・ライヴァルたちにディスの集中砲火を与える。「お前はうぬぼれてやがる/お前が俺に敵うことは到底ない」というコーラスの中で、彼は最後の音節を狂気的な喜びの感情ととともに強調している。彼の身長が6.5フィートで、12サイズの靴を履いているという事実を考えると、ヘイターたちは彼の警告を黙って聞き入れるのが賢明と言えよう。–Michelle Kim

198. dvsn: “The Line” (2016)

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これは厳密には神についての曲ではないが、シンガーDaniel DaleyとプロデューサーNineteen85のデュオ、dvsnによるこのデビュー・シングルは、一種のゴスペルである。あなたが恋に落ちることを宗教的経験だと信じているのなら。Chance the Rapperの『Coloring Book』やKanye Westの”Ultralight Beam”によってメインストリームのヒップホップがゴスペルを取り戻す前年にリリースされたこの曲で、Daleyは曲の骨格をメリスマで満たし、瞬間を永遠に引き伸ばしていく。その魅惑的な繰り返しの感覚には説教師のそれが感じられる。この圧巻のスロウ・ジャムの中盤でコーラス隊が歌い出す頃には、dvsnのロマンティックな贖罪は達成されている。–Rich Juzwiak 

197. Icona Pop: “I Love It” [ft. Charli XCX] (2012)

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躁的であり、無感情でもある。この曲は破局直後の快楽主義を完璧に描いたものである。ドロップは文字通り下がり続けていく。当時新進気鋭だったCharli XCXによって書かれたこの曲は、Patrik Berger(Robynの「Dancing on My Own」も手掛けている)というプロデューサーによってスウェーデンの二人組、Icona Popへと届けられた。しかしこの二人組は復讐の要素を加えることで彼らのエレクトロポップのカタルシスに一捻りを加えている。Icona Popが推奨するようにベースをうんと上げてこの曲を聞けば、傷心の気分など消え去ってしまうだろう。–Olivia Horn 

196. John Maus: “Believer” (2011)

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10年代初期の多くの同世代のLo-Fiアーティストたちと同じように、アメリカ中西部生まれの隠遁家John Mausは、過去に向き直ることでアンダーグラウンドな音楽を前進させた。デジタル・スタジオ技術を拒否し、古いドラム・マシンやヨレヨレのシンセサイザーを好み、80年代スタジアム・ポップや懐かしいラジオ・ジングルの過剰なまでのドラマティックさを掘り起こす。まるで、そこにこそこの世代が持つ名状しがたい潜在意識への鍵があるとでもいうように。しかし、そのようなソースとの実際の関係を読み解くのは難しい。Mausuはここで、コマーシャルの途中で泣いてしまったり、はかない快楽を与えてくれたり、世界が実際の姿より良く見えたりする錯覚を与えてくれたりするような感情的な反応を作り出す音楽の力を茶化しているのだろうか?2011年の作品『We Must Be the Pitiless Censors of Ourselves』の最後に、完璧なラスト・チューンとしてキュレーションされたこの曲は、まばゆいハープシコードアルペジオ、快活に脈を刻むベース、そしてボーダーレスな愛に対する気取った暗喩と共に、Mausが真の"believer”に最も近づいた瞬間を切り取る。–Emilie Friedlander

 

Part 2: 195位〜191位