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<Bandcamp Album of the Day>Eartheater, “Phoenix: Flames Are Dew Upon My Skin”

Eartheater名義の作品の中で、Alex Drewchinは「変身」を重要視している。彼女の楽曲はクラシックの作曲、未来的なエフェクト、自然主義的なフォーク、クラブ・ミュージックのプロダクション、技巧派のギター、そしてオペラのような越えの幅といったものを統合しているものだが、その実際の影響源はさらに自然回帰的なものであるように感じられる。『RIP Chrysalis』ではイモムシがさなぎになりやがて蝶になるまでの過程を、『Trinity』では水が固く凍ったりシューシューと蒸発したりすることができる能力を、デビュー作『Metalepsis』ではこの地球の優美な周回軌道を取り扱っている。Eartheaterの音楽の周囲には様々に異なった音楽が飛び交っているが、彼女の情熱的な声とよく考えられたソングライティングが、重力的な力をもってしてそれらの手綱を引き寄せている。溶岩にまつわる抒情詩『Phoenix: Flames Are Dew Upon My Skin』では、Drewchinのサウンドの核を成す信条――ストリングスのアレンジ、多重オクターヴの歌声や切り刻まれたオーディオ・デザイン――は新たに活気のある形を取っており、これまで到達していなかった高みにたどり着いている。

Phoenix』は弦楽器であふれている。1曲目の “Airborne Ashes” や “Bringing Me Back” では彼女自身によるギターを(後者ではクラシック・ギターを指弾きしている)、その他の曲では彼女が作曲したストリングスのアレンジを聴くことができる。その中には激しい一曲 “Metallic Taste Of Patience” に広範囲なスケールをもたらしているスペインのストリングス・アンサンブル、“Below The Clavicle” や “Kiss Of The Phoenix” にドリーミーな輝きを付け加えているヴァイオリンとハープの二人組=LEYAも含まれている。Drewchinはかなり初期のEartheaterのデモ音源からストリングスのアレンジをしてきたが、『Phoenix』ではオーケストラルな野心を持つ作曲家の姿を見ることができる。

Phoenix』で最も大事な楽器は人間の声であり、Drewchinは自身の声を使う方法を数えきれないほどに見つけ出している。それはアトモスフェリックなウィスパーやデジタル変換された息切れの音からオペラ的な荘厳さに至るまですべてを網羅している。これはシンプルなダイナミックの問題ではない――彼女はただ歌っているだけではなく、彼女はそれぞれの楽曲の中に自信を放り込み、莫大な感情と鮮烈なイメージを伝達している。そのすべてが、壮大なピアノ曲 “Volcano” でピタリとはまっている。まるでDrewchinが自分のJulee CruiseのためにAngelo Badalamentiを弾いているかのような、高く舞い上がっていくこの失恋の歌は「生きることの中毒性」を祝福していて、そのパフォーマンスは彼女のキャリアの中でも最も美しく何かを想起させるようなものである。Eartheaterは常に変身し続けているが、『Phoenix』ではその行為自体に喜びと刺激を見出していて、それはまるで不死鳥そのものである。彼女は生まれ変わったようにも聞こえるし、かつてないほどに彼女らしくも聞こえるのである。

By Miles Bowe · October 13, 2020

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