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<Bandcamp Album of the Day>Oliver Coates, “skins n slime”

Oliver Coatesは彼の世代で最も注目されているクラシック音楽家の一人である。ロンドンの王立音楽アカデミーを記録的な成績で卒業した若きチェリストである彼の演奏はあなたもどこかで耳にしているはずだーー映画のサントラ(Jonny Greenwoodが作曲したポール・トーマス・アンダーソン監督の『ザ・マスター』や、Mica Leviが作曲したジョナサン・グレイザー監督の『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』など)や、あるいは彼とロンドン・コンテンポラリー・オーケストラが堂々とした音色を提供している2016年のRadioheadのアルバム『A Moon Shaped Pool』などで。しかしそれと並行してCoates自身もまた、いくつかのソロ作品を作り上げている。それはすべてチェロに根ざしてはいるが、常に遊び心のあるコンセプトや実験的な作曲技術が盛り込まれているものであった。

2018年の『Shelly's on Zenn-La』で探求していたミュータント風の実験的レイヴとは全く違った作風である『skins n slime』は、Coatesのサウンドがよりヘヴィでダークで、文字通りスライムのようにドロドロとした雰囲気へと進歩しているのが感じ取れるだろう。コンセプチュアル・アーティストのHanne Darbovenなどからインスピレーションを得たというこの作品では、Coatesは自分のチェロの演奏をデジタル・ルーパー上に走らせたり、ディストーションやコーラスをかけたりすることで、その音色をなにか金属的で半透明でツルツルとしたものへと変身させている。しかしその中には常に強力な感情的底流が流れているのだ。

最初の5部制の組曲 “Caregiver” が、Coatesが若くして父親となった経験と結びついていると考えてみたくなる。たしかに、その棒っとした手触りやチックのような反復は、親であることについてまわる生々しい感情や家庭内のルーティンのようななにかを捉えているように感じられる。Marianna Simnettのショート・フィルム “The Bird Game” のために書かれた “Philomela Mutation” はCoatesの卓越したレイヤリングの完成を存分に楽しむことができる。別々の震えるようなメロディー・ラインが繊細な格子になるように並べられていくのだ。しかし『skins n slime』の最も魅惑的な瞬間は最後から2曲目の “Honey” であるーー一つの悲壮感漂うチェロのラインが、デジタル・ディストーションのカーテンをくぐらされ、なにか神々しいものへと近づいていっている。

By Louis Pattison · October 19, 2020

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