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<Bandcamp Album of the Day>Foul Play, “Origins”

UKハードコアはそのにこやかなアプローチが人気のシーンである。ハイエナジーブレイクビーツ、ピッチの上げられたヴォーカル・サンプル、逆上したシンセの刺すような音色、そしてコポコポと音を立てるベースライン。これら全てがだだっ広い倉庫や飛行場の格納庫で、向こう見ずなレイヴァーたちの大群に向かってプレイされるのだ。Foul Playは90年代初期のこのシーンから出現した最も影響力のあるアクトの一つであり続けていて、その後ジャングルやドラムン・ベースの発展における有意義な衝撃を与えることになった。かくして、『Origins』はこの語り継がれてきたサウンドへの最良のイントロダクションなのである。

当初はSteve Gurley、John Morrow、Steve Bradshawに流動的な4人目のメンバーMC Pictionを含めた4人組だったFoul Playは、ノッティンガムでのパーティーやDJイングをへて制作活動へと転じた。1年強のスタジオでの制作の成果として『Origins』グループの最初の3枚のリリース、1992年に自身のOblivionからリリースされた『Vol. 1』と『Vol. 2』、そしてその後1993年にRob PlayfordのSection 5 Records(今や伝説となっているMoving Shadowのサブ・レーベル)から出た『Finest Illusion / Screwface』からの楽曲を集めたものである。

Sneaker Social Clubによってリパッケージされ、UKアンダーグラウンド御用達の一人で、幅広いシーンの様々な人脈を結びつけている存在であるTen Eight Seven MasteringのBeau Thomasによるリマスターが施された『Origins』は時の試練に勝利した鉄壁の楽曲のコレクションであり、UKダンス・ミュージックが無比の独創性をもっていた時代のスナップショットでもある。“Dubbing You”の快楽的なコード進行とBarbara Royによるフックは今聴いてもパーティの最中の「あの感覚」の温かさを思い出させてくれる。“Ragatere”はダブ・サイレン、アーメン・ブレイク、そしてTenor Flyのサンプルという、後にラガ・ジャングルの定番となるような要素が含まれていた。“Feel The Vibe”と“Ricochet”、そしてそれぞれのリミックスはそれぞれ別のディスクに収録されていたものが、ここでは人繋がりになって錯乱的な効果を上げている。このアルバムには優れたDJセットのエネルギーの上がり下がり、そして「一体これは何なんだ?」という瞬間が含まれているが、(この時期にあってはなんだか重大なことに)それはクラブに足を踏み入れることなく楽しむことができるのだ。

By Will Pritchard · May 21, 2020

 

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