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<Bandcamp Album Of The Day>Mr. Scruff, “DJ​-​Kicks: Mr. Scruff”

Fuseによるオンライン・シリーズ「Crate Diggers」のエピソードの中で、Mr. Scruffは「僕がプレイする―厳密にはミックスしているわけだけど―レコードはどれもそれ自体優れている。あまり手を加える必要はないんだ」と語っている。彼が!K7によるDJ-Kicksシリーズに参加することになったことが直感に反していると思ってしまう理由には彼のこの発言がある。マンチェスターのMr. Scruff―長きに渡ってNinja Tuneに所属していて、漫画家や、お茶のちゃんとした淹れ方にうるさい人としての顔も持つ―は長時間のプレイを好んでいる:彼のセット・タイムは5時間にも及び、可能な限り幅広いセレクションからかけることを好むのだ。素晴らしいMr. Scruffのセットはまるで、世界中のブラック・ミュージックの歴史が生きてその場で踊っているかのようだ。ジャズからテクノ、そしてそれ以降に至るまで、そしてそれらの間のあらゆる地点においての。その長さ―そして没入感と信頼―は偉大なるMr. Scruffのセットがもたらす満足感の一部である。

しかしこのセットに限ってはそうではない。31曲を73分にまとめたこの彼による『DJ-Kicks』では音響的な持続力の代わりに凝縮された力が随所で光る。多くのトラックはそもそも長さがとても短いが―Rosa Mariaによる3分間の“泡爆弾”である“Samba Maneiro”がその愉快な一例である―彼が作り上げるグルーヴが彼にしては異常なほどの力を生み出している。聴き手の身体をありとあらゆる方法で動かせる作品でありながら、特に耳を狙われているのが感じられる(その点においてこのリリースのタイミングは悲しくも適切であると言える)。

いずれにせよ、この作品にはのっけから風変わりな仕掛けが満載である―ミックスの幕開けは耳に楽しい自由な感覚を持った新しめの楽曲が中心で、Iona Fortuneの弾力のあるアンビエントからSudan Archivesの弦を爪弾くような瞑想などが続く。もう一つのハイライト、Archie Pelagoの“Brown Oxford”では歩くようなスタンドアップ・ベースを再構成しブラスを付け加え、このトリック・ヘヴィなハウス・トラックの根っこはその深くサイケデリックな性質を素知らぬ顔で隠し通している。「ホーム・リスニング・アルバム」なんていう古い用語を覚えているだろうか?Mr. Scruffが今回作り上げたのはまさにそれである。

By Michaelangelo Matos · March 30, 2020

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