海外音楽評論・論文紹介

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<Bandcamp Album of the Day>Oddisee, “ODD CURE”

ODD CURE』はアルバムと言うよりは、COVID-19の世界的パンデミックの初期段階に際して、それに人生を適応させようとするさまを描いた人間研究記事の、ヒップホップ版である。このプロジェクトはOddiseeが自身の住むブルックリンのスタジオ兼アパートで過ごした自己隔離の期間の間にレコーディングされた。彼が帰宅したのはタイでのサプライズ・ギグのあとで、ニューヨークがロックダウンに入った直後だった。1曲目の “The Cure” で彼は大きくうねるディスコ・ソウル風のアレンジの上から世界を見下ろし、“Is it recess or recession?(これは休暇か?それとも後退か?)” と問いかける。程なく、彼は完全なフロウに突入する――蔓延る陰謀論に対して政治色の強いニュース放送を、共感に対してパラノイアを、そしてもちろん、ウイルスに対して人間性を。

この作品に収録された他の5つの完全な形の楽曲はOddiseeの賢く率直な歌詞のコンビネーションを力強く見せつけている。プロダクションはソウルの影響と催眠的なヒップホップループの科学を縫い合わせたものだ。ベースがグイグイと進む “Shoot Your Shot” は人生の岐路に立たされた時の恐怖に立ち向かうことを瞑想している。シンバルが消音された “Still Strange” はほろ苦い対人関係について掘り下げている。そして “Go To Mars” ではOddiseeが逃避主義の夢と、一つの状況に塞がれている現実のバランスを取っている姿を見ることができる。これは作品の背景となるディレンマであり、それはBill Withersが遥か離れた銀河へと漂っていくことについての楽曲を録音しているところを思い出させる。

そしてなにより、『ODD CURE』では珍しいことに、スキットが楽曲同士を主題的につなぎ合わせる役目を果たしていて、スキップ・ボタンを押したくなるようなことはない。Oddiseeが電話で家族や友人と話す5つの音源は続く楽曲で触れられているテーマを予兆していて、その中には彼の父親が最初COVIDはマラリアだと思っていたと聞く場面や、母親が個人防護具(PPE)の準備(マスク、手袋、トウガラシスプレー)について口うるさく説く場面、友人とフィルター付きマスクを手に入れることについて話す場面などが含まれている。最後のスキットにはドイツに住んでいるOddiseeのマネージャーが登場し、無愛想な調子で2021年のツアーがないことを告げ、その代わりに家で音楽を制作することを提案している。それに対してOddiseeは礼儀正しく返答しているが、その声の中には明らかに疑いのようなつぶやきがあった。このスキットは――アルバム全体もそうであるが――2020年を社会的な引火点であるとする心に染み入るようなスタンスであり、こんにちの現実の中の不確実な決断と未知の領域についての切実な考察が織り交ぜられている。

By Phillip Mlynar · July 21, 2020

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