海外音楽評論・論文紹介

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<Bandcamp Album of the Day>Maria BC, “Devil’s Rain”

Maria BCが自身のデビューEP『Devil's Rain』を録音したのは、ロックダウン中に感じたアパートでの孤独からだった。その声を優しいささやきにとどめ、甘美なギターのループと柔らかいオペラ風の音楽の上で、そして孤独な生活の制限を利用して。その結果出来上がったこのアルバムには親密な感じとともに広がりを感じる。クラシック系のボーカル・トレーニングを受けていることは明らかであるが、力強さは切り取られていて、その代わりに繊細なアルペジオ、光沢のあるハミング、そして柔らかく、はちみつのような甘い歌声など、抑制の中にそれが堂々と現れているのだ。その結果、Norah Jonesのようでもあり、Annie Lennoxのようでもあり、『X-Files』のようでもある。

『Devil's Rain』というタイトルは、天気雨は邪悪な魂のなせる業であるという言い伝えがもとになっている。その通りというべきか、Maria BCはこのような類の矛盾――雲なしで降る雨、一人での合唱、置きながらに見る夢――の中を泳いでいく。歌詞的には、このEPはロマンスと宗教の間のバランスに攻撃し、これら二つを優しい手つきで融合しこれら二つが同じスペクトラムの中に存在するということを示唆している:”The One I’ll Ask” でMariaは「あなたこそ私が自分を裁くのをお願いする存在」と優しく歌い、その力を触れることのできない精霊から恋人の手へと手渡していく。肉体的な意味、そして比喩的な意味での「触れること」が今作で繰り返し提示される主題である――タイトル曲では太陽がMariaを「抱える」し、”Adelaide” における主体は「この歯を通じて」こちらに手を差し伸べることを拒否している。『Devil's Rain』では、人間同士のつながりによってもたらされる単純な充足が超越性を獲得している。

By Arielle Gordon · February 08, 2021

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