海外音楽評論・論文紹介

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<Bandcamp Album of the Day>Small Bills (ELUCID & The Lasso), “Don’t Play It Straight”

「先人たちを褒め称えよ/それはスコアシートの上に飛び散った本物の血/本物の労働/彼らの名前を叫べ」とELUCIDは1曲目 “Safehouse” でラップする。ブルックリンのMC=ELUCIDがミシガンのプロデューサー=The Lassoとタッグを組んだデュオ、Small Billsのデビュー・アルバムである。ジメジメして、ブンブンと唸るブルージーなファンクに乗せて、ELUCIDの言葉は過去に視線を向ける――しかしこの『Don't Play It Straight』の歌詞的なテーマはやがて、パラダイムを押し広げ、すぐ先の未来に向けてよりヘルシーなヴィジョンを思い抱くことへと切り替わっていく。

この14曲のプロジェクトが進行していくにつれて、The Lassoのプロダクションは序盤の、緻密に密集したトラックの集積から終盤の平穏で至福の喜びに満ちたものへと優美にシフトしていく。序盤の “We Don't Really Need Altars” では明白な威嚇が滲んだ特異なベースのトーンを聞かせ、“Moses Was A Magician” はMCの言葉をディストーションの皮で包んだ、聴き手を消耗させるようなエレクトロ・パンクである。FieldやKAYANAというゲスト・シンガーを繰り返し登場させるという賢い方法によって、アルバムが徐々に希望に満ちたものへと変身していく様をサポートしている。最後の数曲では心地よいシンセとパーカッションのしずくが楽曲を優しく運んでいく。スローテンポのきらめくソウル “Even Without You” でこのアルバムは締めくくられるが、ELUCIDはそこで変化を切望しながら、同時に正当に注意深くあることについての言葉を紡いでいく。「君は不安を感じて、そこに舞台を発見する/奇妙だ/俺の時間を無駄にしないでくれ/お前の盾に入った亀裂は俺が計る事ができるくらいのペースで伸びていくが、俺は計りはしない/やがて無益になることだ、そしてその後にはなにが待っている?」

By Phillip Mlynar · October 30, 2020

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