海外音楽評論・論文紹介

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<Bandcamp Album of the Day>Cut Worms, “Nobody Lives Here Anymore”

Max Clarkeに拍手を贈ろう。20世紀中盤の陳腐なポップ・バラードに根付いた音楽を、皮肉を込めてやるわけでもなく、NPRによって音楽の趣味が形成されたような人たちをめがけてやるわけでもなく、そういう音楽を作ろうという選択を、相当な勇気をもって意図的にしたのだから。その試みは2018年の『Hollow Ground』ではうまくいったわけではなかった。Jonathan Radoによる妙なプロダクションは彼の楽曲をノスタルジックな野営地にかえてしまい、彼の音楽の心を打つような簡素さを余計な付属品の海の中に沈めてしまっていた。それによって分かったことは、これほどまでに心からオールド・ファッションな楽曲はストレートに演奏されることでベストのポテンシャルを発揮するのであって、『Nobody Lives Here Anymore』でClarkeは完全に歌うカウボーイになりきることでまさにそこを目指している。

この野心的な『Nobody Lives Here Anymore』はダブル・アルバムである――それはまた別の意味で勇敢なことである、脱線したり自己満足に陥ってしまうための時間も倍になるということなのだから。うれしいことに、そんなことにはなっていないのだが。膨大なトラックリストの中にも一つ一つの楽曲が自分の居場所を見つけていて、Clarkeは80分(!)ものランタイムを使って、フレッシュで、面白くて、熱がこもっている楽曲の中でメロディックなクライマックスを次から次へと繰り出している。音楽的参照点はヴィンテージ・ストアのように黴臭く、涙ぐましいマージービート、声を震わせて歌うカントリー、わずかにサイケデリックなフィルターのかかったゆったりとしたドゥーワップなど、まるで50年分の太陽光を浴びて色あせた写真のようである。ホンキー・トンク・ピアノのタッチ、幽霊のようなスライド・ギター、物腰柔らかなオルガンはとってつけられたものではなくきちんと有機的に響いていて、Clarkeが愛や失恋について歌う優しい歌声がセンターでより際立つ手助けをしている。プレスノートにはこの作品は「使い捨ての消費者文化について、戦後のジメっとした商業的な夢がいかに実現しなかったかについて、そしていかにこういったものたちが後世に残るようには作られていないのか」ということについてであるという本人の発言が引用されていて、オッケー、ほんとに、ごもっとも、といった感じである。Clarkeの作曲のバックボーンとなっているアメリカの古典を集めたソングブックは後世に残すために作られたものであって、『Nobody Lives Here Anymore』で尊敬と愛情をもって引用されている普遍的な主題やタイムレスなモチーフは、どんな時代や年齢のリスナーたちでも共感できるものであると思う。もちろん、NPRによって音楽の趣味が形成されたような人たちも含む。

By Mariana Timony · October 09, 2020

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