海外音楽評論・論文紹介

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<Bandcamp Album of the Day>Natalie Duncan, “Free”

この『Free』というアルバムの中で、イギリスのネオソウル・シンガー=Natalie Duncanは、ソウル、R&B、ジャズをせわしなく行き来しながら、疑い、自由、そして愛について、優雅さと美しさをもって勇気の物語を紡いている――ある時には感情の抑制を見せ、次の瞬間にはそれを切望する、といったように。ねちっこいシングルの “Pools” で、Duncanは献身さの波に乗って、こう甘くささやく。“I just sit inside of your energy/ You really fascinate me/ How come you chose me/ I feel luminous when you’re close to me.(私はあなたのエネルギーの内部に座っているだけ/あなたは本当に私を魅了する/どうしてあなたは私を選んだの/あなたが近くにいると自分が光り輝くのを感じる)”。輪郭がぼんやりとするようなバラード “Autumn” では、彼女は失われた愛を嘆いている。“You can feel the presence of your ghost(あなたは自分の亡霊の存在を感じる)” と彼女は歌う。 “He never looked as good as when you left him alone/ Just as the summer fades to autumn, he’ll be gone(彼はアタナを一人残して去っていったときほどきれいに見えたことはなかった/夏が秋へと薄れていくように、彼はいなくなってしまった)”。

インタールード “Glass” を挟んでトーンが変わる。“Glass” でDuncanはNina Simoneをサンプリングしている。“Karma” ではDuncanの声は熱を放射し、愛の向こう岸からの渡し船を差し出している。『Free』は愛と同じように満ち引きを繰り返す。最初は、その潮はDuncanをまるごと飲み込んでしまうかのように見える。終わる頃には、彼女は息継ぎを死に水面に上がってきて、生身のまま震えるようにして世界に再度足を踏み入れる。しかしその震えは、可能性を感じての身震いなのである。

By Tara C. Mahadevan · July 22, 2020

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