海外音楽評論・論文紹介

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<Bandcamp Album of the Day>Thiago Nassif, “Mente”

ここ10年かそこらの間、Thiago Nassifの音楽はポピュラーとアンダーグラウンド両方を包括し、そこにノイジーで加工されたサウンドとトロピカリアにインスパイアされたバラッドを並列していた。彼の最新作で、Arto Lindsayのプロデュースによる『Mente』は、このコンセプトの論理的結論にたどり着いている。20人以上のシンガー、ソングライター、ミュージシャンたちとともに制作し、Nassifは現代のカリオカ(リオ・デ・ジャネイロの住民を指す言葉)・アンダーグラウンドを要約するようなアルバムを作り上げた。彼はアーティストとしてだけでなく、キュレーターとしても働いていて、繊細なハーモニーや偏在するギター、機知に富んだソングライティングを一つにまとめあげ、豊かなテクスチャを持ったコラージュに仕立て上げた。“Vóz Única Foto Sem Calçinha” では彼はポップ・シンガーソングライターのAna Frango Elétricoの甘い歌声と、Cláudio Britoの演奏によるクイーカ(サンバに特有の打楽器)のサウンドを組み合わせている。“Trepa Trepa” を支配しているクラヴィネットはDonatinho(伝説的作曲家、João Donatoの息子)によるものである。そしてファンク・カリオカにインスパイアされた “Santa” ではBellaがノイズを重ねている。

しかし、『Mente』のなかで最も注目すべき共演は、LindsayとNassifの二人によるものである。共同プロデューサーとしてのクレジットは単なるパートナーシップではなく、ブラジルが持っている豊かな音楽的遺産の生き証人を意味している。“Plástico” や “Feral Fox” と言った曲はLindsayが80〜90年代にプロデュースしたトロピカリアの象徴、Caetano Velosoを思い出させ、ボサ・ノヴァ風の爪弾きやエアリーなキーボードからは “Os Outros Românticos” や “Ela Ela” といった名曲の面影が聴こえる。『Munte』は、彼の最も優れた強みである、共演相手のインスピレーションやサウンドを彼自身の印象派的でノイジーなブラジリアン・ポップの美学にまで高めていく能力を全面に押し出し、新たなディケイドに彼の作品を招き入れている。

By Amanda Cavalcanti · July 08, 2020

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