海外音楽評論・論文紹介

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<Bandcamp Album of the Day>Noveller, “Arrow”

 Sarah LipstaleがNovellerとして発表した作品は、彼女がインストゥルメンタル、特にエレクトリック・ギターにより作曲の可能性を探索するための乗り物であり、彼女をVini ReillyやRoy Montgomeryのようなイノヴェーターたちと肩を並べるレベルに引き上げるほどの豊かな作品となった。『Arrow』はその旅路の続きであり、瞑想の静謐さと、緊張と緩和の要素を結びつけたほの暗く美しい楽曲をさらに発展させたものである。

アルバムの1曲目“Rune”は深く脈打つリズムをベースにしつつ、こわばったギターとピアノのコンビネーションの周りにゆっくりと上昇する音色がまとわりついていく。そこから、この曲は落ち着いているように感じるシークエンスへと歩みをすすめる:時にそれは、Vangelisによる『ブレード・ランナー』を思わせるような拡張的な美、深くくぼんだメランコリーを呼び起こす。“Pattern Recognition”では、甘く上品なメロディが暗く、亡霊のような音色とループに包み込まれていく。“Canyons”はアンドロイドのオルゴールが鳴らす鐘の音色のようなメロディックなフレーズで幕を開けるが、Lipstateはそこに豊かでミルキーなトーンを重ねていく。そして静かな“Pre-fabled”は軽い主旋律と静かな畏怖の念も相まってゆっくりとした呼吸のように感じられ、中盤でダークな音色が奔流のように流れ込む。そのやり方が『Arrow』全体を象徴している。ここには注意を引くような美が存在するが、静謐さはほとんど保証されていないのだ。

By Ned Raggett · June 09, 2020

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