海外音楽評論・論文紹介

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<Bandcamp Album of the Day>Theo Alexander, “Broken Access”

中国系イギリス人作曲家、Theo Alexanderはノイズやメタルといったバックグラウンドを持つが、ここ5年の間はピアノやテープのループを用いた、より静かで、黙想的な領域の探求にいそしんでいる。この『Broken Access』は自宅でTASCAMのPortastudioシリーズのモデルである4トラック・レコーダー――Guided By Voiceによる元祖・Lo-Fi時代や、Bruce Springsteenの『Nebraska』、Wu-Tang Clanの『Enter The Wu-Tang (36 Chambers)』の制作に用いられたのと同じ種類のもの――で録音された。何十年もの間、このような手に入れやすい機材は多くのアーティストたちの最も親密で実存的な黙想をヒスの毛布にくるむ機会を提供してきた。

AlexanderのデビューEPにはピアノと弦楽器による四重奏の作品が4編収められていたが、『Broken Access』における独奏作品は彼とPeter Broderickを似たような位置に並ばせ、Philip Glassのようなミニマリストの巨人の伝統を引き継いでいる。これらの物憂げなネオ・クラシカル作品はGrouperWilliam Basinskiのような暗いアンビエント・アーティストに似た質感を誇るが、Alexanderの作曲は崩壊していくのではなく柔らかに蒸発していくようだ。1曲目の“Palliative”では繰り返されるモチーフが11分という長さの間、徐々に衰えていき、後半ではエフェクトの中に包まれていく。Alexanderのサウンドの源が認識不能になっていく箇所もある:“Matter of Balance”の冒頭で聞こえる低いピッチのドローンや“Fortuité”の最後30秒などだ。特に後者では彼はループを切り、単に鍵盤を気まぐれに弾いている。“Aspect Withdrawn”はこれらの多様なアプローチが最も鮮明な形で現れた曲となっている。希薄ながらも何かを想起させるようなコードで始まるこの曲は、キラキラと光る雲に投影されたのち、Alexanderがテープを止める音で突然終わりを迎えるのだ。

By Jesse Locke · May 26, 2020

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