海外音楽評論・論文紹介

音楽に関するレビューや学術論文の和訳、紹介をするブログです。

<Bandcamp Album of the Day>recovery girl, “recovery girl”

Galen Tiptonの最新リリースはアーケード・ゲーム愛好家なら誰しもがおなじみのあの質問から始まる。「コンティニュー?」このオハイオのプロデューサーは感情を転覆させる。ヴィデオ・ゲームでは終わりを告げる不吉な鐘の音であるこのフレーズを新プロジェクト=recovery girl(人気アニメシリーズ『僕のヒーローアカデミア』のキャラクターから取られた)の歓迎の辞としている。Tiptonの前作『nightbath』(2018)は、PC Musicのマキシマリズムと日本のポスト・フットワークがもつ楽しげなアンビエンスを融合させたコラボレーション作であったのに対し、recovery girlのデビュー作はステージ中央に位置どった非凡な作品である。もともと1月にEPとしてリリースされOrange MilkからLPとして新たにリイシューされたこの作品――エクスパンデッド・エディションには2月に発表されたEP『gross/scratch』と7つのリミックスも収録されている――は乱雑にほとばしるカタルシスをダンスフロアの浮ついたアグレッションに注ぎ込んだような、グリッチが効いたポップ・ソングが詰まった多幸感あふれる一枚だ。

Tiptonは“that girl is my world(you transphobic piece of shit)”でその変形的な魔法を発揮し、「私がお前の終わりを告げる」という復讐の誓いによって棘をつけられたハイパーアクティヴで、ジェンダー的に流動性のあるアンセムを作り上げている。タイトル曲ではTiptonが「なんでも操作することができる」という能力を勝ち誇った後、狂気を感じさせる笑い声のサンプルが工場ごと崩壊させてしまうようなダンス・ブレイクに誘い、勝利への直通ラインを保っている。これらの力強い動きがときおり訪れる静かな場面――つまり、SOPHIEがCharli XCXの『Vroom Vroom EP』のために作り上げた、閉所恐怖症的で異質なブレイクダウンの残響のようでもあるインタールード“let's go bitch”――とコントラストを成し、混沌を拡大させながらも同時にこのアルバムの感情的な深さを曝してもいる。「let's fuck」というサンプルと親密で重度に加工された告白が交互に繰り返されるパーカッシヴなクラブ・バンガー“numbing gel”のような曲は汗にまみれてムンムンとした環境を想起させるが、同時に満たされない切望も感じさせる。recovery girlとしてTiptonは崖の淵に背を向けて踊るためのポップ・ミュージックを作り、失望・怒り・恐怖を使って、最も必要とされるタイミングで回復薬や追加ライフにしてしまうのだ。

By Ed Blair · May 01, 2020

daily.bandcamp.com