海外音楽評論・論文紹介

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<Bandcamp Album Of The Day>Midwife, “Forever”

 デンバーの音楽家・Madeline Johnstonは、自信がMidwife名義で制作している音楽を「ヘヴン・メタル」と呼んでいる。彼女の楽曲の中では、ドリーム・ポップ、アンビエント、ローファイ・ギターが結び付けられて並んで提示されることで、「ヘヴン・メタル」なる用語が暗示するような何かを感じさせている:軽さと重さ、うららかさと暗闇、神性と世俗性。『Forever』はJohnsonが二つの不吉なカプレットをささやくところから始まる。「これは本当に私に起こっていること」「まじでどこかに失せてくれ、2018年よ」それはJohnstonの親友であり、元ルームメイトであり、デンバーの自給自足生活者だったColin Wardが27歳でなくなった年である。それのさらに2年前、JohnstonとWardはデンバーでも主要なDIYキャンプでありアーティストの養成所でもあった・Rhinoceropolisから追い出されてしまった。『Forever』はこれら二つの悲劇から生まれた。そしてこの二つの悲劇の中には更にいくつかの小さな悲劇も含まれる:家を失うこと、方向性を失ってしまうこと、そして決して終わることのないであろう悲しみの感覚。

同じくFlenserに所属するレーベルメイトであるPlanning For Burialのように、Johnstonは特定の感情を想起させるためにはインストゥルメンテーションやエフェクトをどのように使えばいいのか熟知している。作品を通じて、彼女は日焼けで膨れ上がった腕でブンブンとギターを掻き鳴らしたかと思えば、殆ど果てしないように感じられる悲しみの感覚を作り出す、しめやかなリヴァーヴで自分の声を覆ったりする。“Anyone Can Play Guitar”では20代そこそこの恋愛の陳腐さが喪失といきなり相対することになる。“C.R.F.W.”にはWardが自作の詩を朗読する録音が使用されていて、その後をJohnstonの鮮やかでアンビエントなパッセージが続いていく。そのインタールードが、このアルバムで最も絶望的な楽曲“S.W.I.M”に続いていく。この曲の中でJohnstonはー彼女の声はディストーションの中で凝固しているーは苦悩の遠吠えを解き放ち、それはギターをも上回る力と音量で光り輝く。Johnstonの悲しみにほとんど手で触れることができたのかのような、美しい瞬間である。彼女は愛する人の喪失と闘っているのではなく、彼がいない人生を受け入れることと闘っていたのである。デジタル・エフェクトと注意深く操作されたテクスチャを用いた作品でありながら、『Forever』の中心にあるのは傷ついた人間の心なのである。

By Andy O’Connor · April 10, 2020

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