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<Bandcamp Album Of The Day>Axebreaker, “Vigilance”

LocrianHoly CircleBrutalistとしての作品で知られるボルチモアを拠点とするノイズ・アーティスト、Terence Hannumの最新作はその政治的なアジェンダを率直にさらけ出している。Axebreakerはアンチ・ファシストを標榜するパワー・エレクトロニクス・プロジェクトであり、ノイズ界にはびこっているイデオロギー的なグレイゾーンを拒否する。その代わりにこのプロジェクトは奇怪化された手段によって顕在化した暴力的な状態と偏執病的孤独による有機的な恐怖を扱っている。パワー・エレクトロニクスには常にナチ問題がついてまわるのだが、Hannumはその荒野に対立する声として現れた。彼は2017年Noiseyに「パワー・エレクトロニクスの長年のファンとして、このジャンルの創始から受け継がれてきた右翼的な姿勢(や信念)に直接対抗し、その兵力を持って今や権力の座についている者たちやその支持者たちによって崇められている下劣なイデオロギーと対立する方向に持っていきたいんだ」と語っている。

Obsolete Unitsから出ているHannumの最新フル・アルバム『Vigilance』はフィールド・レコーディングとシンセをインダストリアル・パワー・エレクトロニクスのパレットの上で統合し、穏やかな鼓動から耳をつんざくような激しさまでノブの一つまみで一気に駆け抜けてしまうような(“Tolerance”がとりわけ激しい一例である)6つの作品を漂うことになる。歌詞はHannumの思考の寄せ集めの残響で、オーストリアの哲学家・Karl Popperによるアンチ・ファシストの歴史哲学的論文やイタリアの作家でホロコーストの生存者であるPrimo Levi―共に20世紀における全体主義の興隆を生身で目撃し、生身で苦しめられた人物である―から着想を得ている。

サウンド的に、このアルバムは“Mother of Terror”のようなじっくりと瞑想するような脅迫やとらえどころのなく機械的な“Abdication”から、Leviによる警告「すべての時代にはそれぞれのファシズムが存在する」を目的を変えて使用した歌詞が唸るスタッカートのノイズの爆弾“Eternal Threat”まで幅広い。Axebreakerによって、Hannumは全力を尽くして我々に抵抗しているのだ。

By Kim Kelly · March 06, 2020

Axebreaker, “Vigilance” | Bandcamp Daily