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<Bandcamp Album Of The Day>Svitlana Nianio & Oleksandr Yurchenko, “Znayesh Yak? Rozkazhy”

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night-school.bandcamp.com

Svitlana NianioとOleksandr Yurchenkoによる1996年の共作『Znayesh Yak? Rozkazhy』を鑑賞するにあたって、その起源を知る必要はない。むしろ知っていないほうが、このような超世俗的な録音物の存在をすこし重たい歴史から解き放って理解できるという点で、より不思議で魔法のような聴取体験を得ることができる。とはいえ、ある特定の実験音楽のファンにとっては、1980年代から90年代にかけてウクライナの地下音楽シーンで活動していたNianioとYurchenkoは未知の人物ではないだろう。Nianioの水晶のようなソプラノを中世風のチャンバー・カルテット、Cukor Bila Smertのメンバーとして知っている人や、前衛音楽と西洋のロックとの接続を試みたサブカルチャーキエフNovaya Scenaというシーンにおける比較的もっとオブスキュアなYurchenkoの作品を知っているという人も中にはいるだろう。でもそうでない人にとっては全く未知の存在だろうが、それでも一向に構わない。

あえて還元論的な枠組みで捉えれば、この『Znayesh Yak? Rozkazhy(愛らしく訳すとすれば『Know How? Tell Me』となる)』は一種のネオ・フォークに分類することができる。これらの無題の楽曲の中で伝統的な構造を持っている楽曲は少なく、多くの楽曲はしっかりとしたメロディをもっていないのだが、そのようなメロディをもっている楽曲は心打つような美しさを持ちトラディショナル・フォークに通じるようなほとんど古代のような響きを持っている。『Znayesh Yak? Rozkazhy』の楽曲はYurchenkoのダルシマーとNianoのカシオのキーボードによる相互作用を中心として組み立てられていて、彼女たちのノスタルジックな音色は、まるで霜で覆われた窓から眺めているような霧がかった距離感を吹き込むアンビエントサウンドの演出の中に隠されている。Nianoの氷のようなヴォーカルには茶目っ気もありながらこの魔法のような領域を案内する思いやりでもあり、Nicoのように詠唱し、Liz Fraserのようなしゃっくり唱法を披露し、Shirley Collinsのように可愛らしくさえずってみせる。ものすごく難しい時期であるにも関わらずこの作品を満たしている子供っぽい純粋さと遊びの感覚を直感的に掴むために、この作品がソビエト連邦の崩壊後のキエフにあった打ち捨てられた公園で録音されたということを知っている必要はない。『Znayesh Yak? Rozkazhy』はおとぎ話であり、著者や特定の国は必要なくて、その意味はどこでもない場所からやってきて誰にでもストンと腑に落ちる、そんな作品なのである。

By Mariana Timony · February 21, 2020

Svitlana Nianio & Oleksandr Yurchenko, “Znayesh Yak? Rozkazhy” | Bandcamp Daily