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<Bandcamp Album Of The Day>Jacoti Sommes, “Travel Time”

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orangemilkrecords.bandcamp.com

Jacoti Sommesは、最もこじんまりとした場所からでも限界を押し上げるような芸術を作ることができるのだという証明である。オハイオ州コロンバスで生まれ現在も暮らしているマルチ演奏家であり作曲家である彼はこれまでキャリアを通じてジャンルを解体し、その基礎にあるものを組み合わせ直すことによって新しくて奇妙なハイブリッドを作り続けてきた。Sommesの最初のソロ・アルバムとなった2018年の『Ubermensch』はヒップホップ、エレクトロニック、アンビエントの素晴らしい融合であり、Aphex Twinのようなこじれた回路とBoards of CanadaのようなブレイクビーツIDMの中間に位置するような、それでいて時にBlack Moth Super Rainbowを思わせるヴォコーダーを用いたサイケデリアへも踏み出していくような、そんな作品だった。

『Travel Time』でSommesはシンセやドラム・マシーンを用いて、彼が作り変えようとしている聞き慣れたサウンドから逃れるための前向きな考え方を絶えず探しているような、ファンクと80年代のダンス・ミュージックの両方を等しく受け継いだ実験的なエレクトロニック作品を作っている。“Pulse Start”なんかは「マイアミ・ヴァイス」が必要としていたようなエレクトロ・ファンクで、不吉な予兆を暗示するディープなコードで幕を開けるこの曲はやがて、力強いアナログ・ドラムと古いシンセ・ベースを再認識してまるで何光年も先にある銀河から中継されているかのようなアップテンポなダンス・トラックへと変わっていく。バウンシーなダンス・トラック“Everything is Fine”では、Sommesは一度完成させた推進力のあるビートをピアノ・ソロとドラムの連打で解体していく。“I Got Your Back”のモダンなドラム・パターンにも同じような瞬間があり、それは『Travel Time』が単なるパスティーシュではなく、過去のサウンドを拾い上げる未来志向の作品であることの証左である。

By Max Bell · February 14, 2020

Jacoti Sommes, “Travel Time” | Bandcamp Daily