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<Bandcamp Album Of The Day>Fera, “Stupidamutaforma”

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mapledeathrecords.bandcamp.com

イタリアの電子音楽作曲家・Andrea De Franco―Feraという名義で活動している―はこのデビューLP『Stupidamutaforma』の制作に10年以上を費やしてきた。そして費やされた時間はこの作品の中のゆったりした、落ち着いた瞬間の中に聴いてとることができる。アルバムのタイトルは自己批判めいたものになっている:De Francoは自身の作品を電子音楽の「簡略化された」ヴァージョンであると考えている。容赦ないほどの簡素さによって繰り返し形が変わり、電子音楽のどのサブジャンルによってでも形容できるほど拡散されたものになっている(“mutaforma(変身、変身譚)”がその部分を表している)。実際には、ここで聴ける音楽はバカバカしく(=stupid)感じられるわけではなく、信じられないほどに考え抜かれたものである。1曲目“Stupida”はそれに続くアルバム全体の青写真を描き出す:De Franco一つのメロディ・フレーズに固執し、それを繰り返す(“Stupida”ではそれはアナログシンセによって弾かれる5音のメロディー・ラインである);そして、彼はそれを柔らかな手触りのエレメントで覆う:アトモスフェリックな鼻歌のような音、低い唸り声のようなベース音、ジェット・エンジンのように聞こえる高周波数の幽霊のようなシューという音。これらの要素が集まると、『Stupidamutaforma』の楽曲は催眠のように感じられる―60分のランタイムを持つこのアルバムを聴きながら散歩に出ると、聴き終わる頃には郵便番号一つ分離れた場所で、自分がどうやってそこにたどり着いたのかすらわからず立ちすくんでしまうだろう。

De Francoの楽曲は長ければ長いほど効力が増す。“Yung Leaf”は8分半ある曲だが、決して退屈だったり冗長だったりとは感じない。この曲は標準的なStupidamutaルールによって動作している―この場合、繰り返される要素はベースが思いテクノ風のリズムである。しかし楽曲が長いことによってDe Francoは更に多くの要素を重ねていくことができるのだ:最初は微かだったシンセのラインは楽曲が進行するにつれて突き抜けていき、はるか後方で誰かが息を切らしていたように聞こえた音はだんだんと鋭さと危急さを増していく。中盤になると、シンセのメロディは突然夜のとうもろこし畑を突き進むUFOのような光景へと突入する。7分超の“Cura”も同様の幻惑的な手法が取られている。シンセで明滅するようなパターンを描き、対旋律を投入し、ひび割れるようなエフェクトでこんがり焼き上げ、その後で全体をぐつぐつ煮込んでいく。『Stupidamutadorma』によってDe Francoは空間と時間を用いて豊かで没入感のある楽曲群を作り出す作曲家としての地位を確立した。この続きには10年もかからないことを願いたい。- J. Edward keyes, February 10, 2020

Fera, “Stupidmutaforma” | Bandcamp Daily