海外音楽評論・論文紹介

音楽に関するレビューや学術論文の和訳、紹介をするブログです。

Pitchforkが選ぶテン年代ベスト・ソング200 Part 18: 115位〜111位

Part 17: 120位〜116位

115. The Weeknd: “The Morning” (2011)

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これはポップ版『アメリカン・サイコ』―退廃的なもの全てと、我々の時代における胸糞悪いことを少し足してできた作品―である。そしてこれはThe Weekend、R&B界のダークナイトの最良の曲でもある。表面上はドラッギーなパーティ・トラックであるが、そのタイトルは“The Morning”。まるでその喧騒を陽の光のもとで見ろと迫っているようだ。捨てられたプラスティックのカップがカーペットにシミを作る。これはAbel Tesfaye(The Weekendの本名)が世界に発信した最初のビッグなステートメントであり、それは反響を呼び彼をスターにした。世代を覆う気だるさのシンボルである二日酔いのテンポの上には、ストリッパーとコデイン、金。“The Morning”はホラーであるといっていいかもしれない―Tesfayeは自分とその友人たちのことを“zombies of the night”と呼んでいるが、バーを飲み歩くことをいうにはいささか恐ろしい言い方だ。この曲によってThe Weekendは唯一無二で断固たる、「fukced up」な時間を綴るアーティストとなった。それがどれだけ良くて、どれだけひどいものかを思い出したい時にステレオにかける男に。–Alex Frank

114. Daft Punk: “Get Lucky” [ft. Pharrell] (2013)

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“Get Lucky”はコマーシャル内の4小節のループとして世に出された。Daft Punkの執拗なファンたちはすぐさまそれを何時間もリループ、リループを繰り返した。この曲のフル・ヴァージョンがようやく公開されたところで、そのインスト部分はその4小説をひたすら繰り返したものだったが、それはやはり我々の心を奪うものであることに違いはなかった。この曲はそういったものだ:安っぽいMIDIヴァージョンを簡単に作れてしまうほどシンプルであるが、この曲のキーに関して音楽理論の論文が書かれてしまうほどに込み入ったものでもある。明らかに70年代の模倣であるが、今日の曲にも聴こえる。たとえロボットのビーとかブーとかいう音が入ってくる前でさえ。

Dafu Punkがこの曲に使われているまさにこのパーツを、信じられないほど真面目に選んだか、全く真面目に選ばなかったか、どちらかである。このディスコ・グルーヴには一つの欠点もなく、この曲を共同プロデュースし、ギターも弾いているNile Rodger率いるChicへの皮肉なしの敬意が込められている。皮肉は歌詞の方に表れていて、Pharellは「不死鳥の伝説」といった歌詞を歌う際に笑いをこらえようともしない。4行もすれば彼は哲学を放棄して与えられたタスクに集中する:ラッキーになること。しかし彼らのもう1曲のディスコヒット、2013年の“Blurred Lines”と違うのは、この曲がけばけばしすぎていないということだ―十分なスペースがないのだ。この4小節の中に、正確に遂行される楽しさ以外のものを聴くことは難しい。–Katherine St. Asaph

113. Jenny Hval: “Conceptual Romance” (2016)

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理論上、ノルウェーのアーティストJenny Hvalは2016年の『Blood Bitch』を経血と吸血鬼についての実験的なポップアルバムにしようとした。実際、作品はグロテスクさに重点を置いたフェミニンなサウンドの可能性に対する探求を大いに達成した。その感情的な核は“Conceptual Rmance”という雲のように浮かぶ楽曲で、そのはっきりとしない進行はHvalの歌詞の中の苦しみによって決定づけられていた。Chris Krausの1997年の小説『I Love Dick』に宛てられた自作のラヴレターである“Conceptual Romance”はなにかに夢中になることが持っている心を変えてしまうような力についての曲であり、この時代のフェミニスト・アーティスト/知識人の形成の一助となった。「私の失恋はあなたには感傷的すぎる」とHvalは囁く。狡猾にも無感情な男性性に当てつけながら。幻想的な音一つ一つの間で、“Conceptual Romance”は考えることや感じることは我々が行きていく上での大切な支柱であることを肯定している。–Jenn Pelly

112. Paramore: “Ain’t It Fun” (2013)

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怒涛のモール・パンク・アルバムを3枚リリースしたあと、Paramoreはこの“Ain't It Fun”によって自分たちを再発明した。彼らのチャート最高位を記録したこの曲は、グルーヴとソウルを彼女たちの甘ったるいサウンドにもたらした―ゴスペルのクワイアと現実世界の回復力は言うに及ばず。「面倒事を無視するのは簡単/シャボン玉の中で行きている限りは」、とHayley Williamsは歌うが、このサウンドこそが若さのシャボン玉が割れたばかりのサウンドであり、バラ色のメガネを叩き割り始める音であり、後ろなんか振り返らないというサウンドである。Williamsの声ががこれほどまでに堂々と、冷静に響いたことはこれまでなかった。“Ain't It Fun”はParamoreが正式なポップの勢力であること、2010年代のトップ40ギター・ロックのサウンドである、新しく、ジャンルの境界を曖昧にするパラダイムの書き手であることを証明した。彼女たちはWarped Tourのローラーコースターの看板となり、その過程でSnail Mail、Princess Nokia、Lil Uzi Vertに影響を与えたが、彼女たちも今や成長し、ありそうもないところからHot Topic系エモの影響が爆発するのを予期していたのだった。–Jenn Pelly

111. A$AP Ferg: “Shabba” [ft. A$AP Rocky] (2013)

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Fergはかつて、A$AP一門について「俺達はいつだって変わり者だった」と語っている。そしてその証明がこの曲であり、6年たった今でもニューヨークのパーティーには欠かせない1曲である。かつら業を営む家族についての60年代の奇妙なホラー映画からの恐ろしいサンプルとジャマイカン・ダンスホールの王・Shabba Ranksを組み合わせるとは、まったくもって公式の範疇外である。Fergとそのクルーにはもってこいだ。途中にはFergによるこくのある“Master Bruce!”という掛け声のような奇妙で耳をねじるような瞬間や、その直後に来る坑道を落ちていくような不安定な合いの手が聴こえる。Shabba Ranks本人もヴィデオにカメオ出演しており、サビで列挙されるゴールド・ジュエリーは彼の強き人生に正確であるが、ある一つの特徴―この曲のガッツ―はFergだけのものである。–Ross Scarano

Part 19: 110位〜106位