海外音楽評論・論文紹介

音楽に関するレビューや学術論文の和訳、紹介をするブログです。

Pitchforkが選ぶテン年代ベスト・ソング200 Part 6: 175位〜171位

Part 5: 180位〜176位

175. Nicki Minaj: “Come on a Cone” (2012)

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Nicki Minajは糖分過多のポップ・ラップ・アンセムを連発しスターに上り詰めた一方で、この年代を代表する凶暴なMCであるというステータスはこの“Come on a Cone”のような曲で確立された。パンチがあって、トゲのある論証法を発揮し、卑小さと敵意を剥き出しにする。過去10年間で最もダイナミックなラップ・パフォーマンスの一つに数えられるこの“Come on a Cone”は確固たる自信に裏付けされていて、全くのひとりよがりで、ありえないくらいに面白い。Nickiは自身がまばゆいファッションショーで最前列に座っているというステータスを武器として振り回す。「ワタシがアナと座っている時/ワタシは本当にアナと座っているの/メタファーとかパンチラインとかじゃなくて/本当にアナと座っているのよ」と彼女は吠える。「ワタシの勝ちって認めなさいよ」と彼女は勝ち誇る。認めなかったら・・・?Nickiはあなたの顔面にある突起物を突き刺しに来るかも知れない。–Sheldon Pearce

174. Florence and the Machine: “Shake It Out” (2011)

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Florence and the Machineの“Shake It Out"のYouTubeコメント欄を見れば、この曲はリリースから8年たった今でも人々の破局や憂鬱、病気や服役さえも乗り越える手助けをしていることがわかる。Florence Welchの突風のようなヴォーカルが希望と忍耐のメッセージを伝えるその癒やしの力は、この豪華なゴスペル・ポップを嵐の後に差し込んでくる太陽のように響かせてしまう。マルチ・プラチナを達成したFlorenceのデビュー作『Lungs』(2009)はこのロンドンのシンガーを世界的なステージへと知らしめることになったが、この“Shake It Out”とそれに伴うアルバム『Ceremonials』(2011)こそが、彼女のアリーナ級、ヘッドライナー級としての地位を確固たるものにしたといえるだろう(彼女はその地位を今でも保っている)。この10年のポップにおいて、このレベルの恍惚としたカタルシスを感じさせる瞬間は少なかった。大きな空間と大観衆がなければその価値は味わえない。–Amy Phillips

173. DJ Khaled: “I’m on One” [ft. Drake, Rick Ross, and Lil Wayne] (2011)

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合いの手を入れているだけの男が何故、このスターだらけのポッセ・カットを彼名義で出しているのかを不思議に思う人がいても不思議ではない。しかしこの曲において、DJ Khaledはそのエグゼクティブ・プロデューサーとしての才能をいかんなく発揮し、ヒップ・ホップ界の3大スターを集めることに成功している。彼らは皆くつろぎ、自分のゾーンに入ってラップをしているように聞こえる。Rick Rossは自身の『Teflon Don』で確立した、ドラッグディールのドンの寓話を語り、Lil Wayneはカジュアルに自信満々な態度(「お前らはバスを待ってるみたいにベンチに座ってな」)。しかしこの曲の主役はDrake。リーンに溺れながらも、“throne”に挑戦状を叩きつける。そのラップはカナダの同胞T-Minus、Nikhil S.、Noah "40" Shebibによる、サイレンのようなシンセサイザーで編まれたビートに完全に一体化している。このフックはDrakeの“Trust Issues”にも使われたことを考えると、この曲はDJ Khaledのものであると同時にDrakeのものでもある。関わっているアーティスト全員がヒット曲のポテンシャルを持っていることを再認識させられるサマー・アンセムがこれだ。–Matthew Ismael Ruiz

172. Sleep: “Marijuanaut’s Theme” (2018)

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3人組のドゥーム・メタル・バンド、Sleepはいくつかの単純なことをとてつもなくうまくやってのけたことでレジェンドになった。彼らの演奏はスローだ。そして、彼らの演奏はラウドだ。彼らはマリファナを吸うことを『ロード・オブ・ザ・リング』並みの壮大な旅のように聞かせることに成功した。だからこのバンドが15年ぶりの新作を引っさげてカムバックした時、彼らの節くれだったリフが90年代と同じほど天性の才能にあふれていた事自体、大いに祝うに値することだった。

遅く演奏されるメタルはよく終末的なイメージを想起させることがあるが、この“Marijuanaut's Theme”におけるMatt Pikeの途方もなく巨大なギターソロには間違いなく何か破壊の類を感じ取ってしまう。しかしSleepの新作は宇宙をフリーフォールしているようで、燃えるようでありながら心地よく聞こえるのがすごいところだ。彼らはまるでこう言っているかのようだ。「目を閉じてごらん。君の頭の中には演奏しているバンドがいて、彼らはハイになっているんだ」。–Sam Sodomsky

171. Adele: “Rolling in the Deep” (2011)

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“Rolling in the Deep”の冒頭で、Adeleは迫ってきている炎について警告し、やがて彼女は全てを焼き払ってしまう。大成功を収めた破局についてのアルバム『21』からのリード・シングルであるこの曲で彼女はグローバル・スターとなり、それ以降それと同じようなものをほとんど作れていない。この歌詞は「女の恨みは恐ろしい」というクリシェを早々に捨て去り、プリ・コーラスでは煮え立つような怒りも熱を下げ、悲しみとなり傷をさらけ出す。それに付随する音楽も完璧にマッチしている。Adeleはこの曲を「ダークでブルージーなゴスペル・ディスコ」と表現したことがあったが、まさに彼女はこのでっちあげのジャンルを歌うために生まれてきたように感じられる。彼女のヴォーカル・コントロール能力、彼女の声のエッジを削り取るメリスマの使い方はまるでスーパーパワーである。そして、その力を発揮するためにはこの曲が必要だったのだ。–Rich Juzwiak

Part 7: 170位〜166位