海外音楽評論・論文紹介

音楽に関するレビューや学術論文の和訳、紹介をするブログです。

2020-02-01から1ヶ月間の記事一覧

<Bandcamp Album Of The Day>Son Rompe Pera, “Batuco”

ayarecords.bandcamp.com 植民地化と大西洋奴隷貿易によってマリンバがアフリカから中央アメリカに伝わってから何世紀も経つが、それでもマリンバはラテン・アメリカン民俗音楽のなかで必要不可欠な役割を果たしている―主に使用される楽器としてだけではなく…

<Bandcamp Album Of The Day>lié, “You Want It Real”

lievancouver.bandcamp.com バンクーバーのポスト・パンク・トリオのliéは自分たちを「冷たいパンク」と形容する。確かに、彼らのサウンドにはかき混ぜるようなベースラインやコーラスを上回るようなギターの轟音、そして洞窟のような暗さを持ったヴォーカル…

<Bandcamp Album Of The Day>Jeremy Cunningham, “The Weather Up There”

jeremycunningham.bandcamp.com 2008年の住居侵入事件によって兄・Andrewが殺されてから12年後にリリースされたシカゴのドラマー/作曲家のJeremy Cunninghamの最新アルバム『The Weather Up There』は音像的にもリッチでありながら、悲しみと愛を探求するカ…

<Bandcamp Album Of The Day>Gigi Masin, “Calypso”

masin.bandcamp.com 80年代中盤にベネチアの音楽家・Gigi Masinが音楽を発表し始めた頃、祖国イタリアでは無視され、その他の国々でもほとんど彼に注意を払う者はいなかった。21世紀に入ってもなお断続的にソロ作品を発表し続けていた彼だが、2007年に洪水の…

<Bandcamp Album Of The Day>Parlor Walls, “Heavy Tongue”

parlorwalls.bandcamp.com ノー・ウェイヴとは相反という考え方に基づいて成り立っている音楽である―それは不協和音のメロディと、ノイジーで好戦的なテクスチャが交互に立ち現れるサウンドのローラーコースターである。ブルックリンのグループ・Parlar Wall…

<Pitchfork Sunday Review和訳>The KLF: Chill Out

KLF Communications, 1990By: Philip Sherburne, February 16, 2020 8.9 KLFによるサンプルを多用したドリームスケープ、アンビエント・ハウス・ミュージックにおいて最も影響力を持つ作品の一つ 1959年、James Tennyという名の若い作曲家が、先進的な考えを…

<Bandcamp Album Of The Day>Svitlana Nianio & Oleksandr Yurchenko, “Znayesh Yak? Rozkazhy”

night-school.bandcamp.com Svitlana NianioとOleksandr Yurchenkoによる1996年の共作『Znayesh Yak? Rozkazhy』を鑑賞するにあたって、その起源を知る必要はない。むしろ知っていないほうが、このような超世俗的な録音物の存在をすこし重たい歴史から解き放…

Pitchforkが選ぶテン年代ベスト・アルバム200 Part 12: 90位〜81位

Part 11: 100位〜91位 90. Joyce Manor: Never Hungover Again (2014) 3枚めとなるこのアルバムで、カリフォルニアのポップ・パンク・バンドJoyce Manorは持ち味のヒリヒリするようでふわふわとしたサウンドを蒸留し、パワーとメロディの極めて自然な一陣の…

<Bandcamp Album Of The Day>Forever, “Close to the Flame”

forever-apoet.bandcamp.com 『Close to the Flame』は、Foreverという名義でポップ・ミュージックを作っているモントリオールを拠点とするヴォーカリスト・June Moonによる2作目のEPであり、感情を開示した作品である。セルフタイトルのデビュー作から3年経…

Pitchforkが選ぶテン年代ベスト・ソング200 Part 25: 80位〜76位

Part 24: 85位〜81位 80. Blood Orange: “You’re Not Good Enough” (2013) www.youtube.com アーティストが音楽を自分のセラピーであると語るのはクリシェであるが、Dev Hynesは我々なら患者と医者の間の秘密にしておくようなことを本当に音楽の中でシェアし…

<Bandcamp Album Of The Day>Citizen Boy & Mafia Boyz, “From Avoca Hills to the World”

gqomoh.bandcamp.com 『From Avoca Hills to the World』はゴム(Gqom。南アフリカのエレクトロニック・ミュージックの一種)の勃興を、その主要な提唱者の視点から紐解いている。その人物とは21歳のプロデューサーにしてクルー・Mafia Boyzの一員でもあるCi…

<Bandcamp Album Of The Day>Sarah Harmer, “Are You Gone”

sarahharmer.bandcamp.com 10年以上前にアルバムをリリースして以来、オンタリオのシンガー・ソングライター、Sarah Harmerは環境保護のための活動に専念してきた。ナイアガラの滝を保護するためのPERL(Protecting Escarpment Rural Land=急斜面の地域の保…

<Bandcamp Album Of The Day>Jacoti Sommes, “Travel Time”

orangemilkrecords.bandcamp.com Jacoti Sommesは、最もこじんまりとした場所からでも限界を押し上げるような芸術を作ることができるのだという証明である。オハイオ州コロンバスで生まれ現在も暮らしているマルチ演奏家であり作曲家である彼はこれまでキャ…

<Bandcamp Album Of The Day>Sotomayor, “Orígenes”

sotomayor.bandcamp.com ファンキーなDJグループ・Beat Buffet、そしてオルタナ・ロック・バンド・Jefes del Desiertoでのそれぞれの活動を経て、RaulとPaulinaのSotomayerきょうだいは2014年に名字を冠した名義での活動をスタートさせ、翌年にはデビュー作…

<Bandcamp Album Of The Day>Mush, “3D Routine”

mushband.bandcamp.com イギリスの政治的・社会的な気候は、多くの点でアメリカのそれの鏡像となっている:ヘイト・クライムと暴力の興隆、社会扶助給付の削減、不適格な政治家、そして若者たちの希望がかつてないほどに乏しくなっていること。我々が普段目…

<Bandcamp Album Of The Day>Wildflower, “Season 2”

wildflowermusic.bandcamp.com ロンドンのシーンの実り多く継続的な成功の秘訣は、ジャズをワールド・ミュージックと捉えていることにある。イギリスの政治的分断を招いた移民の波はまた、中東、アフリカ、そのほかのヨーロッパの国々、そしていうまでもなく…

<Bandcamp Album Of The Day>Fera, “Stupidamutaforma”

mapledeathrecords.bandcamp.com イタリアの電子音楽作曲家・Andrea De Franco―Feraという名義で活動している―はこのデビューLP『Stupidamutaforma』の制作に10年以上を費やしてきた。そして費やされた時間はこの作品の中のゆったりした、落ち着いた瞬間の中…

Pitchforkが選ぶテン年代ベスト・ソング200 Part 24: 85位〜81位

Part 23: 90位〜86位 85. Charli XCX: “Track 10” (2017) www.youtube.com Charli XCXは「聴くSF」である。愉快なほどにロボット風で、風変わりなほどに宇宙的な彼女は2017年のミックステープ『Pop 2』で自分が何処へ向かっているのか、そして何処を目指すこ…

Pitchforkが選ぶテン年代ベスト・アルバム200 Part 11: 100位〜91位

Part 10: 110位〜101位 100. Ariana Grande: Sweetener (2018) 一時、Ariana Grandeのキャリアは暗闇に飲み込まれてしまうのではないかと思われた。2017年、マンチェスターでの彼女のコンサートでは自爆テロで22人が亡くなった。そこにいた人達であれば、そ…

Pitchforkが選ぶテン年代ベスト・ソング200 Part 23: 90位〜86位

Part 22: 95位〜91位 90. Blawan: “Why They Hide Their Bodies Under My Garage?” (2012) www.youtube.com Blawan“Why They Hide Their Bodies Under My Garage?”はもしかするとこの10年で最も快活で意地悪い楽曲かもしれない。暴れまわる狂牛のように疾走…